
**イギリスつまみ食い**
| 第40回の目次 |
| ● オフィスのお話 |
| ● 一言イギリス英語講座 - 今回はお休みです。 |
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● オフィスのお話
(このコラムは、7月5日と7月19日にメールマガジンとして2回に分けて配信されたものをホームページ用に編集しなおしたものです。) イギリスと日本では、オフィス生活もちょっと違ってきます。その点、日本の会社→日本の外資系の会社→イギリスの日系の会社と転職をしてきたわたしは、わりと無理なく環境適応できたのかもしれません。これが逆だったり、一段階抜かしたりすると、ちょっと難しかったかも。イギリスでの会社員生活も、もうすぐ10年目を迎えます。そんなわたしの体験やイギリスで見たり聞いたりしたオフィス話をまとめてみました。 休暇 休暇は各人の契約によって異なります。同じ会社の中で同じ仕事をしていても、雇用時に交わした契約によっては、休暇の日数や休める日も変わってきます。一般的に、大規模会社の正社員の場合には、20日〜25日の有給の年次休暇が与えられるようです。この日数が多いか少ないかは、いわゆる国民の祝日に当たる、Bank Holiday の日数によるかもしれません。バンク・ホリデーというのは、銀行協会が決める銀行の定休日です。銀行が閉まっていたのでは商売にならないということで、多くの会社がこれに追従して休業することにしたため、国民の休日のようになりました。このバンク・ホリデーが年に8日ほどあります。(昨年は2000年を控えて大晦日が特別に休日になり、通常より一日休日が増えました。)日本の国民の休日と比較するとだいぶ少ないかもしれません。が、国民が一斉に休む休日よりは、個人の都合のよい時に休める年次休暇が多いほうがずっといいとわたしは思います。年次休暇を増やしても、たぶん夏の休暇シーズンをなくすことはできないでしょうが、少なくても独身の人や子供のない夫婦は、交通渋滞がなく、航空運賃やホテル代の安いオフ・シーズンに旅行をすることができますものね。 多くの人が、2週間程度の長期休暇を年に一回とります。わたしの会社では、社員規定により、10日間の休暇をまとめてとるよう奨励されています。(某日系銀行のニューヨーク支店での不祥事からの教訓によるものという噂です。まとまった休みを取らないで働き続ける人がいると、不正をしていても、他の人の目にとまらず、損害が雪だるま式に大きくなる可能性があることを心配しての対策とか。)クリスマスが終わると、次の年の旅行の行き先を決めたり、旅行会社に予約をしたりします。特に、子供のいる家庭は、どうしても7〜8月の夏休みに休暇を取ることになりますので、他の人と重ならないよう、職場で早目に休暇を確保しておくようにします。この長期連続休暇も、日本が見習うべきところではないでしょうか。イギリスでは、首相も毎年、これを楽しみにしています。(今年は、約2週間の産休までとりましたが。) この年次休暇の別枠に、病欠があります。つまり、病気をして会社を休んでも有給休暇からは差し引かれないわけです。しかも、病欠には日数の制限がありません。となれば、このすばらしいシステムを濫用する人が出てきても不思議はありません。(「いいシステムは必ず濫用する人が現れてやがて廃止される。」というのが、イギリスに来てわたしが学んだことです。)わたしの知人は、美容院でパーマをかけたものの、全然気に入らなかったので、翌日病欠したことがあります。こういった濫用を防ぐため、ある程度の日数を連続して休む場合には、医師の診断書の提出を義務づける会社も少なくありません。また、あまり頻繁に病欠をとる場合には、昇給やボーナスの査定時に不利になったり、リストラの時に真っ先に候補に上がったりすることもあります。ただし、この病欠については、労働者の基本的人権や弱者保護の点から、難しい問題があることも確かです。 以上、ここでご紹介したのは、比較的大きな企業の正社員の場合でした。正社員は、このような休暇の他、年金や国民健康保険料の会社負担など、いろいろな面で優遇されています。雇用者の立場からすると、たいへんな費用がかかっているわけです。正社員を一人採用すると、会社は実際にはその給料の倍を支払っていると言われます。このような事情から、最近では、派遣社員 (temp) や契約社員 (contractor) が労働力の大きな割合を占めるようになっています。その一方、派遣社員や契約社員の権利(年次休暇や国民保険料の会社負担など)を拡充すべきという、政府に対するプレッシャーも強まっています。 リストラ イギリスでは人員整理に伴う解雇を "redundancy" と呼びます。「リストラされた」は、"I was made redundant". この "redundancy" という言葉は、もともと、重複や余剰人員を指します。つまり、その仕事が必要なくなったため、または、その仕事にはそれほどの人数が必要なくなったために解雇されるというわけです。もしこの直後に同じ職に他の人を雇うと、仕事がなくなったのではなくて、その人に辞めてほしかったのだということになり、正当な解雇の理由が必要になってきます。ところが、実際の話、会社としては、その人に辞めてもらって、別の人をもっと安い給料で雇いたいということもあります。この場合、納得の行く額(法定金額以上)の一時金を支払って円満に辞めてもらうことになります。 もちろん、リストラが円満に行くことはめったにありません。特に、営業関係の人が辞めさせられる場合は、面接室に呼ばれ、帰りは出口に直行(時には警備の人のエスコート付きで)というような話を聞きます。これは、一度自分の席に戻る時間を与えると、その時に顧客リストを持っていかれる可能性があるから、ということです。 給料とボーナス 給料と言えば、かつては週給が相場でしたが、最近は、派遣社員や契約社員でも、月給が普通になりつつあります。10年くらい前に、やはり週給が通例というオーストラリアから来た人にその理由を聞いたことがあります。答えは、月給にすると、最初の一週間で給料を全部使ってしまって、月末まで残らないから、ということでした。それから考えると、イギリス人もずいぶん家計のやりくりがうまくなったのでしょう。 ボーナスは、イギリスでは、会社の業績がとりわけよかった時、個人が特に会社の業績に貢献した時などにもらえるもので、日本のように、年に2回、当然あるものというわけではありません。前回書いたように、日本で外資系の会社に勤めていたことがありますが、ここは和洋折衷のような給与体系をとっていました。つまり、基本給は欧米式に年俸で提示されます。そして、その年俸を18ヶ月で割って、月給の額が決まり、日本式に6月と12月の年に2回、3ヶ月分ずつのボーナスが出ました。つまり、ボーナス(賞与)とは名ばかりで、最初から給料の一部に含まれているわけです。人を朝三暮四の猿と一緒にするなとちょっとむっとしましたが、やっぱりまとまったお金がもらえるというのはいいものでした。イギリスでは、一般の会社では滅多にボーナスを支給することはないようです。しかし、金融機関は別で、ここでは優秀な人材を止め置くために、高額のボーナスを支払います。米系の金融機関は12月のクリスマス前にボーナスを出すところが多いですが、この時期になると、賃金を含めた物価指数が上がったというニュースを聞きます。(経済指標を動かすほどのボーナスをもらってみたい。)ちょっとかわったボーナスとしては、某英系の金融機関では、クリスマスに生の七面鳥が社員に配られます。このようにボーナスが半ば慣例となっている業界でも、同じ会社の中でボーナスをもらえる人ともらえない人があったり、もらえる場合も天と地くらいの金額の開きがあったりします。これは、給料も同じです。イギリスはヨーロッパで一番、トップと平社員との給料の差が大きい国と言われます。実際、一桁どころか二桁も三桁も給料の額が違います。日本にいた頃、同期に入社した、同じような学歴の同僚が自分とは違う給料をもらっているとは夢にも考えていなかったわたしには、かなりショックな現実でした。 また、昇給にしても、個人差は大きいです。我が社のように昇給の前に査定というもののある会社も多いようですが、これがまた熾烈。トップ・セールスマンともなると、「これだけくれなきゃよそに移るぞ。」という脅しが通用します。売上に直接貢献しない間接部門などになると、「最近家を買って住宅ローンの支払いは重いし、子供も産まれたので、生活が厳しい。」と泣き落とし戦略を使う人もいるそうです。組合のある会社の場合は、会社側と交渉し合意したベースアップ率に従って、昇給が決まるのが過去の通例でしたが、最近では、組合のある会社でも、査定を元に昇給が決められるケースが増えてきているようです。 通勤費 このメールマガジン連載の最初の頃に増刊号でちょっと取り上げたことがありますが、イギリスでは、通勤費を支給しない会社がほとんどです。理由は、わたしの聞いた限りでは二つあります。郊外に住む人たちは、同じ金額で大きな家に住めるなどのメリットをすでに享受している。これに会社が通勤費の補助をすると、都市部に住んでいる人に対して不公平である。もう一つは、会社にとって税負担となるというものです。通勤費は出ませんが、その代わりに会社が定期代を貸し付けてくれるところも少なくありません。1年分の定期代を会社が出してくれて、それを10ヶ月分割で、毎月給料から天引きで返済していくといったものです。また、あるレベル以上の管理職になると、カンパニー・カーと呼ばれる社用車(もちろん会社のロゴなんて入っていませんよ。)が支給される会社もあります。これは通勤の足というよりは、むしろ、報酬の一部であり(たぶん税金対策)、車は奥さんが子供の学校の送り迎えに使っているというケースも少なくないようです。 社員食堂 大手の企業で自社ビルを持っているところにはあるようですが、全体的に見ると、それほど多くはないようです。特に、近年の経費節約の一環で、社員食堂がなくなったという会社の話も聞きます。食堂のあるところでも、会社が食事代の補助をしてくれるところと、ケータリング(給食)会社に場所だけ提供して社員の食事代は補助しないところと、いろいろあります。また、90年代に入ってからは少なくなったようですが、近所の店で使える食事券 (luncheon voucher) を社員に支給する会社もあるようです。どちらにしろ、最近の傾向としては、昼食は軽いもので済ませる人が多いようです。自分の机でサンドイッチを食べる、これがイギリス人に最も多い昼食時間の過ごし方だそうです。われわれ日本人からすると、毎日サンドイッチで飽きないの?という気がします。イギリス人にしてみると、パンだけでも、チアバッタにブラウン・ブレッド、バゲットにラップと、チョイスは多いということなのかもしません。おいしいサンドイッチは確かにおいしいですが、物の割には高いと思いません?制服 金融機関の窓口など接客に携わる職場をのぞいて、事務職では制服はほとんど見かけません。それでも、やっぱり職場ではスーツなど、職場にふさわしい地味な服装をしている人がほとんどです。(うちの会社には、黒のスーツに白のブラウスと自分の制服を決めて、この組み合わせで毎日出勤してくるイギリス人女性がいるらしいです。)ただし、金曜日は別。我が社の場合は、東京の本社の号令でカジュアル・ドレス・デーになったようですが、普段地味な色合いのシティー(ロンドンの金融街)が、金曜日には多少カラフルになるところを見ると、カジュアル・フライデーは、日系企業だけのものでもないのでしょう。 某大手英系電話会社には、スカート・ズボンの制服の他に、サリー版もあります。さすが、多民族の従業員を抱える大企業ですね。 定年と年金 「元気でなるべく長く働きたい」というのが多くの日本人の願いですが、「できるだけ早く引退して悠々自適の生活を送りたい」というのが多くのイギリス人の願望です。 国民年金の支給は現在のところ、男性は65歳、女性は60歳から始まります。(2010年から段階的に女性の支給開始年齢が引き上げられ、2020年までには、男女ともに65歳からになります。)多くの大企業では、従業員のための年金制度を設けていますが、企業年金は雇用者が合意すれば、50歳から支給されるところがほとんどです。60歳定年を設ける会社が多いようですが、昨今のリストラクチャリングの波を受け、早期退職を募る企業が増え、50代で一時金と年金支給即刻開始を条件に引退する人が増えています。こうなると困るのは政府のほうです。50代で引退されては国民年金の保険料収入にひびきますものね。というわけで、50歳からの企業年金の支給を禁止するよう企業に働きかけようという案も政府は検討しているそうです。 A Temp from the Hell 最後にとんでもない派遣社員の話。派遣社員は英語では temp と言います。うちの会社の場合、東京の本社から転勤で来た人たちを派遣社員と現地採用の日本人社員の間では呼ぶので、ちょっとまぎらわしいのですが。「派遣で働いている」は、英語で "I'm temping." となります。 某大手英系電話会社で働いている派遣社員のイギリス人T君、昼食に出かけたきり戻ってきません。彼の携帯に電話をしても返事がない。派遣会社に電話をして自宅に連絡をとってもらうことにしました。派遣会社から戻ってきた答えは、「電話には出たんですが、まともな会話にならなくて。」どうやら、ランチに行ったパブで飲みすぎて、べろべろに酔っ払って家に帰ったらしいのです。この電話会社は、T君を即日解雇。T君は派遣会社とも縁を断たれたらしいです。そりゃ、そうですよね。この後に来た派遣社員は一日中電話ばかりしているということで、派遣社員には不運続きの会社なのでした。 |