Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第42回の目次
● オリンピックとイギリス人
● イギリス人の主食
● 一言イギリス英語講座 - dodgy

● オリンピックとイギリス人

4年に一度のオリンピックも終わってしまいましたが、蓋を開けてみれば、イギリスの金メダルは11個と、1920年以来最高のメダル獲得数となりました。こうなると、きっとイギリス人のフィーバーぶりはものすごいのでは、と日本人だったら思うでしょう?ところが、終盤こそ、メディアが賑やかになったものの、国民のほうの盛り上がりはいまいち。中継のほうも、徹夜までして観ていた人はあまりいないようです。オリンピックの話をしているイギリス人も見たことなかったし。

この理由を考えてみました。

まず、イギリス人のスポーツに対するクールさ。日本人の場合、オリンピック観戦となると、パフォーマンス自体よりは、その背景にある人間ドラマに注目します。本人の努力、家族の応援、怪我での挫折などなど。そして観戦中は、選手に感情移入して全身全霊をこめて応援します。そこへ行くと、イギリス人は、パフォーマンスにのみ注目します。解説者も浪花節的なことは一切言わない。やっぱり、スポ根は、イギリス人にはうけないでしょうね。

そして、二つ目の理由は、以前「イギリス人の地域対抗意識」の中でご紹介したように、"Great Britain" ということだと愛国心が燃えない。"Great Britain" というのは、単なる政治的区分でしかないわけです。したがって、彼らの民族意識には訴えてこない。これが、イングランドとかスコットランドということになると、サッカーやクリケット、ラグビーのようにイギリス人も燃えるのではないでしょうか。

こうして、イギリスでは静かにオリンピックも終わりました。次は2年後の冬季オリンピックと言うことになるでしょうが、冬はさらに盛り上がりません。

● イギリス人の主食

日本に帰ると友人や親戚からよく聞かれるのが、「イギリスでは何を食べているの?」

我が家では、日本式の一汁三菜という食事はしません。というのも、おかずにご飯という日本式の食べ方を夫ができないからです。ご飯に味がない(おいしいお米はそれだけでもおいしいのですがね。)、ご飯に何もかかっていないと食べられないというのがその主張です。このようなイギリス人は意外に多くて、我が社の社員食堂で鳥のから揚げにご飯なんて出ると、「ソースはいかが?」と聞かれます。"Yes, please." とでも言おうものなら、とんかつソースをから揚げからご飯の上まで、たっぷりとかけられてしまいます。つまり、ご飯に味がついていないと食べられないイギリス人はかなり多いのです。

カリフォルニアで米食の研究をされている大学教授(漫然と読んでいた雑誌にたまたま出ていたため、お名前は忘れてしまいましたが)によると、日本人には口内咬合という習慣があるため、ご飯をおいしくいただけるのだが、西洋人はこの習慣がないため、米食のおいしさがわからないのだそうです。日本人は、口の中にご飯とおかずを入れて一緒に噛んで食べるわけですが、西洋人にはその習慣がない。そこで、ご飯はご飯だけで食べることになり、味がないではないかということになるわけです。この原因は、口に食べ物(ご飯)が入っている時に、口を開けてさらに食べ物(おかず)を口の中に入れるのは、マナー違反だからではないかとわたしは推察するのですが、ただ単に口内咬合という習慣がないというだけなのかもしれません。

それでは、口内咬合の習慣のないイギリス人がご飯を食べる時はどうするかというと、皿上混合(こちらはわたしの造語)をするわけです。カレーでも、チリ・コン・カルネでも、まず口に入れる前に、ご飯とソースとを皿の上でかき混ぜます。まあ、口の中に入ってしまえば、口内咬合でも皿上混合でも同じですが。

件の大学教授は、米食のおいしさをアメリカ人に知ってもらうべく、口内咬合を米国にて伝道中だそうです。だんな一人改宗させる努力すら放棄したわたしには、頭の下がる思いです。

「それじゃ、イギリスではパンとか食べているわけ?」実際、現在70歳以上のイギリス人の中には、米なんて今まで食べたことがないという人も少なくないようです。しかし、かといって、パンで生きているわけでもありません。パンはトースト、サンドイッチとして食べるくらいで、日本のご飯とは役割がちょっと違います。日本のファミリーレストランでセットメニューを頼むと、「ライスになさいますか?パンになさいますか?」という質問がついてきますが、イギリスではこういう形でメイン・コースにパンが登場することはありません。レストランでは、一番最初に現れます。これでとりあえず飢えはしのいでおいてねというのでしょうか。もし、この時単独で出てこなければ、スープやプローン・カクテル(海老にシーフ−ドソースをかけたもの)などの前菜に添えられてきます。そして、多くの場合、パンはメイン・コースが登場する前に下げられてしまいます。

「イギリスはおいしい」の中で林望先生は、イギリスには主食はないとおっしゃっていますが、日本人にとっての米のような役割をしている食物は確かにないかもしれません。ただ、何かお腹にたまるような食べものが一品ほしいのはイギリス人も同じで、典型的なイギリス料理では、じゃがいもがその役割を果たしているように思えます。ロースト・マッシュ・チップス(フライ)・ボイルと調理方法はいろいろですが、なんらかの形で肉や魚についてくるのが通例です。もっとも、日本の米のような特殊な地位は占めておらず、野菜の一つとして見なされています。

● 一言イギリス英語講座 - dodgy

日本語で「ドジな人」と言うと、そそっかしくて失敗の多い人を指しますが、イギリス英語で「ドジーな人」と言うと、ちょっと信用のできない人を指します。物にも使いますが、「危ない、胡散臭い、信頼できない」という感じでしょうか。たいへん口語的な表現です。動詞の"dodge"が元になっており、もともとの意味は「身をかわす」。最後までボールに当たらずに残っていたほうが勝ちのドッジボールのドッジです。そこから、法律や責任などから「身をかわす」、「巧みに(法の目)をかいくぐる」という使われ方をするようになったようです。不正乗車の「キセル」は"fare dodging"。

この「ドジーな人」たちですが、イギリスの庶民にはどうも憎めない存在みたいです。人気コメディーシリーズ、"Only Fools and Horses" のデル・ボーイこと、デレク・トロッター、"Minder" のアーサー・デイリーなどがその典型。うかうかしていると、友人にすら不良商品を売りつけかねない連中です。南ロンドンに "Dodgy Duncan's" という中古車屋があります。こんな店、看板通りだったら危なくて、とても入れないところですが、立派に商売をしています。こんなイギリス的ユーモアがうけているのでしょうか。それとも、「ドジーな人々」に対する庶民の愛情なのでしょうか。

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