● イギリス人の主食
日本に帰ると友人や親戚からよく聞かれるのが、「イギリスでは何を食べているの?」
我が家では、日本式の一汁三菜という食事はしません。というのも、おかずにご飯という日本式の食べ方を夫ができないからです。ご飯に味がない(おいしいお米はそれだけでもおいしいのですがね。)、ご飯に何もかかっていないと食べられないというのがその主張です。このようなイギリス人は意外に多くて、我が社の社員食堂で鳥のから揚げにご飯なんて出ると、「ソースはいかが?」と聞かれます。"Yes, please." とでも言おうものなら、とんかつソースをから揚げからご飯の上まで、たっぷりとかけられてしまいます。つまり、ご飯に味がついていないと食べられないイギリス人はかなり多いのです。
カリフォルニアで米食の研究をされている大学教授(漫然と読んでいた雑誌にたまたま出ていたため、お名前は忘れてしまいましたが)によると、日本人には口内咬合という習慣があるため、ご飯をおいしくいただけるのだが、西洋人はこの習慣がないため、米食のおいしさがわからないのだそうです。日本人は、口の中にご飯とおかずを入れて一緒に噛んで食べるわけですが、西洋人にはその習慣がない。そこで、ご飯はご飯だけで食べることになり、味がないではないかということになるわけです。この原因は、口に食べ物(ご飯)が入っている時に、口を開けてさらに食べ物(おかず)を口の中に入れるのは、マナー違反だからではないかとわたしは推察するのですが、ただ単に口内咬合という習慣がないというだけなのかもしれません。
それでは、口内咬合の習慣のないイギリス人がご飯を食べる時はどうするかというと、皿上混合(こちらはわたしの造語)をするわけです。カレーでも、チリ・コン・カルネでも、まず口に入れる前に、ご飯とソースとを皿の上でかき混ぜます。まあ、口の中に入ってしまえば、口内咬合でも皿上混合でも同じですが。
件の大学教授は、米食のおいしさをアメリカ人に知ってもらうべく、口内咬合を米国にて伝道中だそうです。だんな一人改宗させる努力すら放棄したわたしには、頭の下がる思いです。
「それじゃ、イギリスではパンとか食べているわけ?」実際、現在70歳以上のイギリス人の中には、米なんて今まで食べたことがないという人も少なくないようです。しかし、かといって、パンで生きているわけでもありません。パンはトースト、サンドイッチとして食べるくらいで、日本のご飯とは役割がちょっと違います。日本のファミリーレストランでセットメニューを頼むと、「ライスになさいますか?パンになさいますか?」という質問がついてきますが、イギリスではこういう形でメイン・コースにパンが登場することはありません。レストランでは、一番最初に現れます。これでとりあえず飢えはしのいでおいてねというのでしょうか。もし、この時単独で出てこなければ、スープやプローン・カクテル(海老にシーフ−ドソースをかけたもの)などの前菜に添えられてきます。そして、多くの場合、パンはメイン・コースが登場する前に下げられてしまいます。
「イギリスはおいしい」の中で林望先生は、イギリスには主食はないとおっしゃっていますが、日本人にとっての米のような役割をしている食物は確かにないかもしれません。ただ、何かお腹にたまるような食べものが一品ほしいのはイギリス人も同じで、典型的なイギリス料理では、じゃがいもがその役割を果たしているように思えます。ロースト・マッシュ・チップス(フライ)・ボイルと調理方法はいろいろですが、なんらかの形で肉や魚についてくるのが通例です。もっとも、日本の米のような特殊な地位は占めておらず、野菜の一つとして見なされています。