
**イギリスつまみ食い**
| 第45回の目次 |
| ● イギリスで家を売る・買う − 住宅売買の落とし穴(2) |
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● イギリスで家を売る・買う − 住宅売買の落とし穴(2)
最初のどんでん返しとは、わたしたちの買い手(仮にG夫妻とします)が、現在住んでいる家に買い手がついたために、その家を売ることにしたことです。もともとは、この家は賃貸に出すということでした。それゆえ、この買い手なら早く家を処分できると思って、わたしたちも売値より安い言い値を承諾したわけです。それはないだろう?と言いたいところですが、文句は言えません。前述したようにオファーを受け入れた段階では、買い手・売り手の双方に法的拘束力は生まれていないからです。もちろん、売り手のわたしたちのほうも、この時点で「それなら、あなたたちに売るのはやめた。他の買い手を探す。」と言って、白紙に戻すこともできるわけです。しかし、買い手のG夫妻のほうには、すでにその家の買い手からオファーが出ているので、ここから契約書交換までは通常約6週間。もしわたしたちがこれから新たに買い手を探すとしたら、別の買い手が見つかるまでどのくらいかかるかは、神のみぞ知るです。というわけで、わたしたちはG夫妻の家が売れるのを待つことにしました。今考えると、これが大きな間違いだったのですが・・・。 「契約書交換まで法的拘束力は生じない」というイギリスの住宅売買の落とし穴は、通常、買い手のほうに不利に働くケースが多く見られます。ガザンピング (gazamping) という不動産専門用語がありますが、これは、売り手がオファーを受け入れておきながら、もっと高い値段でオファーを提示した別の相手に乗り換えることを指します。この場合、最初にオファーを出した買い手は、不動産鑑定(前の号で説明しましたが)の費用など、すでにかなりの金額を負担した後、泣く泣く夢のマイホームをあきらめることになります。これは80年代の住宅ブームの頃からすでにかなり大きな社会問題になっており、政府も現在対策を考慮中です。その試案の一つがバイヤーズ・パッケージと呼ばれるもので、すでにいくつかの都市で実施されています。これは、不動産鑑定と土地登記に関する調査を予め売り手が行ってから、家を売りに出すというもの。実行されている都市では、オファーが出てから契約書交換までの期間が著しく短縮されたという結果が報告されています。欠点としては、このパッケージ、500ポンドから1000ポンド(8万5千円〜17万円)かかるということで、売り手の負担が重くなるということと、売り手によって行われる売り家の調査・鑑定は甘くなることが多く、必ずしも買い手が満足できるものではないということが挙げられています。 こうしたわけで、わたしたちの家売却は、G夫妻の家の契約次第となってしまいました。このような状態をチェーン(鎖)と呼びます。これは、住み替えが慣習であるイギリスではよくあることです。結婚して子供が生まれると、もう少し広い家に住み替える。この場合、これから買う家の持ち主はこの家を売って、通常郊外のさらに大きい家を買い、当の買い手本人もまた今の家を別の人に売ることになります。こうして、この人一人を中心にあっという間に両端に鎖ができるわけです。親亀がこけたら皆こけたという恐ろしい状況にもなりえます。このような理由から、初めてマイホームを買う人たちは(それ以上チェーンが延びることがないゆえに)売り手に喜ばれ、空家状態で売りに出される家は買い手に喜ばれるわけです。住み替えよりは建て替えが主流であった日本では、まだチェーンの問題はそれほど深刻ではないかもしれませんが、マンションを永住用に購入する人がますます増えてきている今日、この問題は将来頻繁に見られるようになるでしょう。 さて、こうして9月スペイン移住の計画は泡と消え、日の出は徐々に遅くなり、日暮れはどんどん早くなるイギリスで、わたしはせっせと会社通いを続けました。もうそろそろ、買い手の家の契約のほうも進んでいるのではないかと、不動産屋に中間報告を求めると、なんと、とんでもないニュースがわたしたちを待ち構えていたのでした。 それは、G夫妻の家の買い手(仮にO嬢とします)の事務弁護士の事務所が不正行為で営業停止になったため、銀行から住宅ローンの許可が降りず、そのため、O嬢は新しい弁護士を立てて、住宅ローンの申し込みを一からしなおさないといけなくなったということでした。この弁護士事務所を含む数軒の弁護士事務所グループは、あるインド人の所有になっていました。その事務所全部の口座から合計1300万ポンド(約22億1千万円)の金がある日忽然と消え、オーナーはボンベイに高飛びしていたのでした。 二つ目の不動産売買の落とし穴はここにあります。全ての金銭のやり取りが事務弁護士の事務所の口座を経由して行われることです。手付金も契約完了まで事務弁護士の事務所の口座に留まることになります。契約完了時には、買い手もしくはその住宅ローン会社から家の代金が弁護士事務所の口座に振り込まれますが、その口座から振り出された小切手を家の売り手が現金化するまでの間、家の代金は弁護士事務所の口座に残っているわけです。このような弁護士事務所の金融的役割に目をつけたのが、このインド人オーナーで、これまでせっせと事務弁護士の事務所を買い取ってきたということです。 しかし、わたしたちの買い手の買い手が新しい弁護士を使って無事住宅ローンの許可を受けたということでこれも一件落着。この事件もだんだん記憶から遠ざかりつつありました。ところが、これで終わりではなかったのでした。 [次回に続く]
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