
**イギリスつまみ食い**
| 第46回の目次 |
| ● イギリスで家を売る・買う − 住宅売買の落とし穴(3) |
| ● やっぱりこれで終わりではなかった |
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● イギリスで家を売る・買う − 住宅売買の落とし穴(3)
新しい問題とは、わたしたちの買い手・G夫妻の家の前の歩道が他人の所有になっていることでした。つまり、わたしたちの家と同じ問題です。不動産屋でも、同じことがこのようにチェーンの中で続けて起こるのは実に珍しいことだと言うことでした。わたしたちの家の場合に比較して、所有者がはっきりしているこちらの場合は解決は早く、まもなくこの問題も片付きました。 これでもうすぐ契約書交換と思っていたところ、不動産屋に進捗状況に関する報告を求めると、今度はもっと厄介な問題が起こっていました。例の弁護士事務所オーナー横領事件がまだ尾を引いていたのです。チェーンの末端であり、G夫妻の買い手であるO嬢はすでに手付金をその事務弁護士の口座に払い込んでいたのですが、この金もインド人オーナーに持ち逃げされていたのでした。ということは、契約を完了しようにも、住宅代金がこの手付金の金額分だけ不足するわけです。 イギリスの事務弁護士事務所は弁護士協会に属し、こうしたケースに備えて一種の保険料を支払っています。O嬢の場合も、弁護士協会から手付金を弁償してもらえるはずでした。ところが、多くの保険金同様、支払いとなるといつになるかわからないというのが困ったところです。どうしてもクリスマスまでにはスペインに引っ越したかったわたしたちは、この手付金に相当する額をO嬢のために立て替えてあげることを申し出ました。ところが、わたしたちの弁護士によると、弁護士協会は被害者以外に金を支払うことはできず、わたしたちが立て替えた金が戻ってくる可能性は小さいということでした。そもそもわたしたちには関係のない問題のためにみすみす戻ってこない金を貸してやるつもりはありません。そこで、この案はボツ。 この時点で、すでに11月に入っていました。クリスマスまでに引っ越すためには、11月中旬までにわたしの勤務している会社に退職願を出す必要があります。わたしは契約書交換まで、つまり契約が法的に確定する段階まで退職願を出すつもりはありませんでした。もしこの前の段階で退職願を出し、この取引がご破算になるようなことになったら、わたしは収入のない身で、今の家の住宅ローンを払い続けないといけないことになります。でも、クリスマスまでにはスペインに引っ越したい。(クリスマスパーティーのチケットも買ってあるし。) そこで、わたしたちは最後の手段に出ました。今週中に契約書交換まで行かなかったらこの取引からは手を引くと、不動産屋を通じて買い手のG夫妻に意思を伝えました。それまでは、買う気がないのか、ただのんびりした性格なのかよくわからなかったG夫妻でしたが、これには素早く反応しました。O嬢に金を貸すと申し出、弁護士事務所に即座に足を運びました。ところが、やる気になったのが遅かった。金を貸すといっても、そう簡単にはいきません。事務弁護士が借用書の原稿を作り、売り手と買い手の双方がサインをする。事務弁護士が関わると、何事も一週間以上はかかるのが常です。 そんなわけで、11月中旬までに契約書交換にはたどりつきませんでした。別の不動産屋に新しい見積もりを頼むと、現在の金額よりも高く売れるだろうとのこと。この6ヶ月の間にも、イギリスの住宅価格はさらに上昇していたのですね。しかしながら、新しい買い手を探すといっても、クリスマス前は内覧に来る人もいないでしょう。再び家を売りに出すのは新年に入ってからと決めて、現在進行中の取引の模様眺めをすることにしました。すると、12月8日、契約書を交換したという連絡が事務弁護士から入ったのです。オファーを受け入れてから実に6ヶ月2日後でした。 繰り返しになりますが、契約書交換によって初めて売買契約が法的に成立したことになります。ここから先、売り手も買い手も気を変えることはできません。この次の段階は契約完了ということになり、売り手にとっては家の明渡し、買い手にとっては住宅代金の払い込みを意味します。契約書交換と契約完了は同じ日に行われることもありますが、わたしが会社を辞める都合もあって(退職願を出してから、1ヶ月待たないと辞められないため)契約完了日は契約書交換から約4週間後の1月5日としました。チェーンのもう一方の端であるG夫妻の家の契約完了も同じ日です。こうして、1月5日には二つの家で同時に引越しが行われるはずでした。 ところがこれで終わりではなかったのです。最後の最後にとんでもないニュースが飛び込んできました。クリスマスも目前の12月22日金曜日午後5時少しすぎのことです。不動産屋から電話があり、1月5日の契約完了は無理そうだということでした。 取り乱して電話をしてきたG夫人の要領を得ない話を不動産屋がまとめたところによると、どうやら彼らの住宅ローンの許可の期限が今日切れたらしいのです。住宅ローンの許可が降りたのは、たぶん6月中旬頃でしょう。ローン会社のほうも、まとまった金額の金を一人の客のために永遠にいつでも使える状態にしておくことはできません。6ヶ月の期限というのはもっともな話です。住宅ローンの許可の期限が切れてしまったということは、新しい許可を得ない限り、1月5日には契約完了しないということになります。 最初はこのニュースに「またトラブルか。」と暗くなっていたわたしたちでしたが、よくよく考えるとわたしたちにとっては決して損な話ではないことがわかってきました。1月5日に契約完了しないということは、G夫妻の契約違反ということになります。ここが契約書交換をしているかいないかの大きな分かれ目です。これが契約書交換前だったら、わたしたちはただ待つしかなかったでしょう。ところがすでに契約書を交換している現在、もし予定通り1月5日に住宅代金が振り込まれないとしたら、すでに手付金として支払われている住宅価格の10%に相当する金が違約金としてわたしたちに支払われることになります。一度は振出しに戻ることすら覚悟をしていたわたしたちです。違約金をいただいて、前よりも高い値段で新しく家を売りに出すのも悪くないかなという気になってきました。 一方、買い手のG夫妻のほうの心境は察するにかたくありません。もし万が一1月5日までに新規に住宅ローンを手配できない場合、かなりの金額を違約金として支払わねばなりません。家が手に入ればまだしも諦めがつくかもしれませんが、これをきっかけに買い手であるわたしたちがこの取引から手を引くことも十分考えられます。そして、1月5日には今住んでいる家をO嬢に明け渡さないといけません。もしそれができなければ、O嬢にも違約金を支払わずをえないことになります。 事務弁護士に相談するにも、クリスマス・正月休み明けの1月2日まで事務所は開きません。それから住宅ローンの申し込みに駆けずり回っても、1月5日までに許可を得るのはかなり難しいでしょう。こんな状況で迎えたクリスマスは、G一家にとっては一生で一番暗いものだったのではないでしょうか。実際、不動産屋の話によると、この時からG夫妻はお互いに口をきいていなかったそうです。クリスマスの連休が明けた12月27日から、G夫妻は別々に新しい住宅ローンを求めて動き始めたのでした。 さて、わたしたちのほうですが、1月5日の契約完了が怪しくなったとはいえ、予定通りに行った場合に備えて、その日までに引越しできる用意はしておかないといけません。1月3日に不動産屋に尋ねると、5日の契約完了はやはり無理そうとのことでした。ところが、1月4日に再度問い合わせてみると、99%の確率で翌日契約完了するという答えが返ってきました。通常5日に完了すると言えば、5日の朝には住宅代金が売り手の弁護士の口座に振り込まれていることを意味します。ところが、このような状態ですから、わたしたちの事務弁護士も、これを曲げて期限を同日午後2時まで延ばしてあげたということです。 さて、その注目の1月5日、契約は完了しました。期限の午後2時をオーバーして、午後4時の完了だったそうです。G一家が引っ越してきたのは午後5時ということでした。 どうやって予定通り1月5日に契約完了することができたのか。それは永遠の謎です。しかし、不動産屋や他の人たちの話を総合すると、どうもG夫妻の弁護士の暗躍によるものだったようです。もし、これで契約が完了せず、G夫妻が契約違反に問われるようなことになった場合、住宅ローンの許可の期限切れに気がつかずに契約完了日に合意した弁護士は、当然その能力を問われることになるでしょう。そこでたぶん、住宅ローン会社に、後の不動産鑑定で担保割れになるとわかったらその分を弁護士事務所が負担するというような条件をつけて、不動産鑑定などの事務手続き無しで即刻住宅ローンの許可を出させたのかもしれません。 こうして大きな謎を残しながらも家は売れました。7ヶ月以上に渡る、期待と失望の繰り返しの日々はついに終わりました。もっともこれはわたしたちの側でだけですが。元隣人からの情報によると、G夫妻は彼らの事務弁護士を告訴することを考慮しているそうです。詳しい事情はわかりませんが、1月5日金曜日に支払われるべき金が翌週月曜日まで支払われず、週末の間の金利を支払わないといけないことになったのだそうです。 しかし、これまで散々振りまわされてきたわたしからすると、G夫妻にも全く責任がなかったとは言いきれないような気がします。チェーンの真中にあって二つの契約を同時に完了させる。このような微妙な立場にありながら、すべてを弁護士まかせにして何もしてこなかった罰が最後に当たったのではないでしょうか。家を売る・買う。全てがスムーズに行った場合には簡単なことですが、そうでない場合には、これほど厄介なことはありません。 さて、最後に権利書 (title deeds) が買い手の手に渡ります。ただし、住宅ローンを利用した場合は、権利書は通常ローン会社に渡り、そこで保管されます。自宅に置いておいて盗難や火災などで紛失するのを心配するより、ローン会社に預けておくほうを選ぶ人も少なくありません。そこで、住宅ローン満期後もわずかの金額(1ポンドとか)を返済せずに残しておき、小額の利息を払うことによって、ローン会社に安全保管してもらうというようなこともしばしば行われます。 |
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● やっぱりこれで終わりではなかった
さて、3回に渡ってご紹介した通りいろいろありましたが、とにかくイギリスの家を売り、1月30日のスペイン行きフェリーを待つばかりとなりました。その朝、いつもは見ない字幕放送でフェリーの運行状況をチェックしてみると、なんとこの便は24時間遅れて1月31日出発に変更されていました。1月上旬からシーズンオフの修理点検に入っていたフェリーですが、運行再開の第一便の予定されていた30日には間に合わなかったためということです。最後の最後までどんでん返しが続いたイギリス脱出でした。ネット友達のヒロコさんは親切にも「イギリスがみちえさんを手放そうとしないのよ。」と言って下さいましたが、これだけ運命に阻まれながら決行したスペイン移住、果たしてこの先吉と出るのか、凶と出るのか・・・。 |