Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第49回の目次
● ごね得のススメ
● スペインの客と店の関係

 ● ごね得のススメ

前回では、日本の客と店員との関係は金の流れに基づいている、それゆえ金の流れが逆転したとき、この関係も180度変化するということを述べました。

 

ドロシー・パーキンズという全国展開をしている大手衣料チェーン店で毛糸の手袋を買ったときのことです。家に帰り、両手袋を結んでいる糸を切ってみると穴があいていました。翌日、この店にレシートを持って行って事情を説明すると、何の質問もなく、快く新しいものに交換してくれました。内心、もしかしたら糸を切るときに、はさみの先で穴をあけたのではないかと一抹の罪悪感を感じましたが、そのままだったら買ったばかりの手袋が無駄になるところでした。やっぱり言ってみるものです。

これは8ポンド(約1500円)ほどのごね得でしたが、わたしの人生最大のごね得は、クレジットカードの2ヶ月分の利子を帳消しにしてもらったことでしょう。それまでは、いつもニコニコ全額翌月払いだったのですが、ある月、日本へ急遽帰国したりしてカードの利用額がかさみ、一部の支払いを翌月以降に延ばしたことがありました。その翌月届いた請求書を見てびっくり。そこには法外に思える金額の利息が請求されていました。クレジットカード会社に電話をして説明を求めると、利息は購入した日にさかのぼって計算されるなどとの利息計算に関する丁寧な説明がありました。そこで特に抗議をしたわけでもないのですが、マネージャーにかわり、今までの支払い履歴をコンピュータでチェックした後、初犯につき今回は見逃すということで、利息を帳消しにしてくれました。やっぱり言ってみるものです。

ごね得のポイントはマネージャーに掛け合うこと。組織よりは個人の責任が問われる西欧では、失敗した時にとる責任も大きいかわり、マネージャークラスにはかなり大きな権限が与えられています。このマネージャーの判断次第で大きなごね得にありつくことができます。

イギリスのチェーン店などでは制度として返品への対応が確立しているため、マネージャークラスまで行かなくても、初めの例のように店員レベルで問題なく交換・返金をしてもらうことができます。

この点で最も優れていると思うのが、マークス・アンド・スペンサーではないでしょうか。近年その斜陽がマスコミで大きく取り上げられていますが、いまだに中産階級におけるその品質に対する信頼は薄れていません。この品質に対する信頼はその返品制度から来ているのではないでしょうか。すべての商品(食品から衣料まで)は、セント・マイケルズという自社ブランドで統一されています。それゆえにできる業ですが、返品はレシートなしでも可能です。クリスマスにセーターをもらったが色が気に入らない。もちろん、プレゼントですからレシートもありませんし、どこの支店で買ったものかも定かではありません。しかし、品物さえ持っていけば、どこの支店でも快く交換してくれます。

このように確立された返品制度は、これまでの消費者運動の賜物でもあるでしょう。BBCの「ウォッチドッグ」は長寿を誇る消費者苦情番組です。あまりに人気があるので、現在では健康商品を特集した新しい時間枠まで増えて(健康商品ってよっぽど苦情が多いのでしょうね。)、週に2回の放映となっています。現在は「ウィーキスト・リンク」という非情なクイズ番組のこわーい司会者として有名なアン・ロビンソンが、1993年から2000年まで司会を務めました。彼女が消費者を代表して会社代表を問い詰めるところなどは、それはそれは怖かったものです。(特に最後の彼女のウィンクはホラー映画より怖かった。)また、この他にも「ローグ・トレーダー」(ニック・リーソンをモデルにした映画と同じタイトルです  が)など、隠しカメラを使ったおとり捜査に基づく番組をはじめ、消費者  苦情番組は全盛です。このような消費者番組が長寿と人気を誇るところを  見ると、消費者の関心と権利意識が高いことがうかがえます。     各業界、特に公益サービスには必ず独立した監視団体が設けられていま  す。こうした団体は、電話料金・ガス料金など適正な価格が守られ、業界  内で公平な競争が行われているかどうかを常に監視します。企業に料金を  下げるように指導することもあります。業界のレフリーと言えるでしょう。  このような制度は、クリケット・ラグビー(イギリス人に言わせればサッ  カーも)など各種スポーツを生み出し、フェアプレーを何よりも重視する  イギリス人の気質から来ていると言えるかもしれません。   わたしの友人の友人の話ですが、前述のマークス・アンド・スペンサー  で昼食用にサンドイッチを買いました。ところが時間がなく、つい食べ損  ねてしまったため、商品を持って店に戻ったそうです。返金を求めました  が、さすがにこれは受け入れてもらえませんでした。食品に関しては、  「安全上の理由」から返品は受け入れないのが店の方針だということです。  それにしても、だめでもともととはいえ、自分の都合で食べ損ねたサンド  イッチにまで返金を求めるとはなかなかの根性とわたしは感心したのでし  た。

 ● スペインの客と店の関係

次号では、今回ちょっと触れましたイギリスの返品制度を取り上げてみたいと思います。題して、「ごね得のススメ」。これもまた、わたしとしては珍しくイギリス賛美になりそうです。故郷や子供時代は遠く離れて見ると美しい思い出ばかりが残るものですが、わたしにとってのイギリスもそうなってくるような気がします。イギリスに対する辛口批判を期待して読んでくださっている皆様、ごめんなさいね。たまにはイギリスの悪口も書くようにします。でも、スペインと比べるとやっぱりイギリスは文明国です。

スペインの店員と客との関係はといえば、店員に客に対する関心があるときには客は人間となり、全く関心のない時、あるいは別の関心がある時には、客は人間として存在しなくなると言えるでしょう。つまり、同僚とのおしゃべりに夢中の時、あるいは機嫌の悪い時には客に一言の挨拶もありません。最後の「ありがとうございました。」すら聞かれないこともあります。イギリス人の夫が立腹するのが、「プリーズ」のないこと。イギリスの場合、会計時に「○○ポンド○○ペンス、プリーズ」と店員が言いますが、スペインではこの最後のプリーズがありません。これが客に対する態度かと夫は憤慨するのですが、これはたぶん日本と同様「○○円になります。」という合計額の提示であり、「○○円いただきます。」というイギリス式要求ではないのだとわたしは思います。これは単なる習慣の違いなのでしょう。

2月初めにイギリスに9日間ほど帰りましたが、その時夫が強く印象を受けたのが接客態度が向上したことだそうです。どこへ行ってもたいへん協力的で丁寧な扱いを受けたと感心していました。特に、レストランのサービスには明らかに向上が見られ、「ハーイ。わたしの名前は○○。今日のあなたのウェイトレスです。よろしくね。」というアメリカ式のフレンドリーで個人的に気の付くサービスに近づく日も遠くないと思われるということでした。この原因は明らかにチップでしょう。チップはあくまでも心づけ、客がよいサービスを受けたと思うときのみ任意でお金を残していったものでした。かつては、サービス料を請求するのはソーホーの中華・タイレストランくらいでしたが、今回はロンドン郊外のイタリア料理店でサービス料込みの勘定書きを受け取りびっくりしました。顧客サービスも金で買う時代になりつつあります。

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