Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第54回の目次
● ご無沙汰いたしました
● 「イギリスつまみ食い」流パブガイド〜一般常識編〜
● 再びイギリスより

● ご無沙汰いたしました

またまたご無沙汰をしてしまい、すみませんでした。先日はついに、まぐまぐから、今月中に発行しないと廃刊するぞという警告まで来てしまいました。最後に発行してから、そろそろ6ヶ月になるそうです。でも、このメルマガをやめるつもりは全然ありません。実はすでに原稿はできていたのですが、なんとなく形がまとまらないまま、時ばかり過ぎていきました。そこに、1月末に発行されたハリーポッターのファンブック「マグルからハリー・ポッターと魔法の世界へ」の夏の号が出ることになり、この中でイギリスのパブについて説明してもらえるかというお誘いをいただきました。友人の勧めもあって、このメールマガジンでもちょうどイギリスのパブについて取り上げようと原稿を書きかけていたところだったので、まさに理想的なタイミングでした。新しい本にはこのマガジンの原稿を利用することができ、この本がきっかけとなって、マガジンの原稿のほうは一気に形ができました。こうして、6ヶ月ぶりにマガジン発行にこぎつけたわけです。

このようなわけで、このマガジンは一部上記の本に基づいており、上記の本は一部このマガジンの原稿に基づいています。

イギリス文化の要とも言えるパブについてはすでに多くのガイドブックで取り上げられていますが、この"Anglo-bites"(イギリスつまみ食い)では、今回の一般常識編と次回以降の注文編と勘定編との3回に分けて、イギリスのパブでのお作法を私(わたくし)流にご紹介したいと思います。半年近く発行がなくて、いざ発行となると3号もまとめてやって来る、まるでロンドンのバスのようだなんて皮肉は言わないでくださいね。わたしの性格から行くと、3回分の原稿を書き終えてから1号ずつ発行するというのが本来のやりかたなのですが、今回はお尻に火がついての見切り発車です。もし3回続かなくても許してやってください。

● 「イギリスつまみ食い」流パブガイド〜一般常識編〜

イギリスのパブには大きく分けて2つのタイプがあります。住宅街の中のパブと交通の要所や美しい田園風景の広がる中に位置するパブです。

住宅地のパブは地元の人々の社交の場としての役割を果たしています。このようなパブはえてして、男性ばかりが集まっており、ビールを片手に話をしているか、ダーツ(標的に矢を投げて得点を争う室内ゲーム)や玉突きに興じています。こんな中によそ者が入っていくと、じろじろと見られることになります。このようなパブで食事を出すところはあまりありません。客はみな家で食事を済ませてくるからです。このようなパブはしばしば「ローカルパブ」と呼ばれます。つまり、近所の人たちのための近所のパブということです。

これに対して、交通の要所や田舎にあるパブには、食事を出すところが多く見られます。かつては、パブの食べ物といえば、プラウマンズ・ランチのようなサンドイッチに毛が生えたような簡単なものが主流でした。プラマンズ・ランチは、チーズあるいはハムなどにフランスパンかロールパンが付いて、バターにレタスやトマトなどのちょっとした生野菜を添えたものです。ほかにかつてのパブの典型的な料理としては、チキン・アンド・チップス(フライドチキンにフライドポテト)やフィッシュ・アンド・チップスなどが挙げられます。パブではおつまみは出しません。ちょっと何かをつまみたいというときには、小さな袋入りのポテトチップス(crisps)やピーナッツ、ポーク・スクラッチング(豚の皮を油で揚げたものが原型になっていて、健康志向の強い昨今では、脂肪分が高そうなイメージからいとわれる傾向にあります)などを買います。かつては、日曜日に、ローストポテトやザルガイなどをカウンターに置いて、つまみとしてただで客に出したパブもあったそうです。

最近では、食事を出すパブが急激に増えています。飲み物より食べ物のほうが利益率が圧倒的に高いという経営判断によるものです。中にはグルメガイドに載るほど食事に力を入れているパブもあります。このようなパブの中で流行の先端を行っているのが、中華料理やタイ料理・マレーシア料理などの東洋料理を出すレストランを一部に兼ね備えたパブです。また、ビーフイーターやハーベスターなど大手パブレストランチェーンの傘下に入るパブも増えてきました。これは日本のファミリーレストランに近いものです。どのレストラン(パブ)に行っても、カラー印刷の同じメニューが出てきます。また、最近特に人気があるのが、パブでのサンデーランチ。イギリスでは、日曜日の昼食時(1時〜3時くらい)にロースト肉の食事をする伝統がありますが、5ポンド(約千円)前後でパブで食べることができるようになったので、パブに出かける家族が増えてきました。日曜日はゆっくりしたいという働く女性に重宝がられています。

このような交通の要所や田舎にあるパブでは、旅行者や観光客、家族連れの客が大部分を占めます。特に、週末を近郊で楽しむ都会に住む人々、とりわけ家族連れのくつろぎの場所という色合いが最近とみに濃くなっているようです。そこで、裏にはビアガーデンと呼ばれるベンチとテーブルを置いた庭があり、すべり台やぶらんこ・ジャングルジムなどが設置されたパブも多く見られます。

パブの中には、"The Anchor Inn"や"The Bull Inn"など、名前の一部に"inn"という言葉の入っているところもあります。"inn"は、かつては旅人に宿泊施設と飲み物や食べ物を提供する家を意味しました。街道沿いに位置することが多く、乗り合い馬車の停車場として旅人の休憩所になっていたわけです。このようなかつての宿屋は、経営者の意図や交通事情の変化などにより、今では宿泊施設を一般に提供するのをやめて普通のパブとなっているところもありますが、依然パブと宿屋を兼ねているところもあります。このため、"inn"はパブと呼ばれることもよくあります。地理的条件からして、元宿屋のパブ、"inn"は、上記の分類のうち、後者のタイプに属するものが多いと言えます。

もう一つ最近増えてきたのが、テーマパークならぬテーマパブです。中に入っていくと、まるで船の中のいるような錯覚を覚えるパブ、あるいは教会からそっくり内装を移して来たパブなど。このようなパブは改装に金がかかるため、ビール会社が提供する資金に頼るところが多いようです。古い"inn"スタイルのパブが商業主義にどっぷり浸ったテーマパブに姿を変えるのを嘆く向きも少なくはありません。このようなパブも、対象とする客層からして、後者のタイプに属すると言えるでしょう。地理的には、ロンドンなど都会に多いようです。

このようなビール会社の傘下に入っているパブに対して、特定のビール会社に縛られないのが"free house"です。このようなパブでは、経営者の意図で自由に好きな銘柄を出すことができるため、珍しいビール(次の号で述べますが、特にビター)に巡り合うこともよくあります。そこで、ビール好きの人たちは、看板に"free house"という文字を見つけると、食指が動くようです。

パブに関してはいろいろな法律があります。まず、パブにはライセンス(免許)が必要で、これは管轄の地方自治体によって管理されています。また、イギリスでは18歳未満の飲酒は法律で禁じられています。(ただし、大人と一緒に同じ食卓で食事をする場合には、アルコールを飲んでもよいということです。)16歳未満はカウンター近辺には立ち寄れないことになっていますので、当然飲み物の注文はできません。そこで、事実上、子どもは大人同伴でない限りパブには行けないことになります。また、子どものパブ内部への立ち入りを許すには、特別な証明書が必要になるなど、子ども連れが増えてきたとはいえ、やはりパブはもともと大人のもの(それも男性のもの)という感じが残っています。

最近では、1日中営業のパブが増えてきましたが、かつては昼食時と晩に限られていました。昨年、サッカーのワールドカップが開催されたときには、日本でのイングランドの試合中継にあわせて、一時的にライセンスを延長し、朝の開店を特別に許されたパブもあります。(マイケル・オーウェンの「ローカルパブ」はこの特別措置を許されなかったというので全国ニュースになっていました。)パブの閉店は通常、平日で11時、日曜日で10時半となっています(これもそれぞれのパブに与えられたライセンスによります)。この時間には、がらんがらんという鐘の音が聞こえてきますが、これはラストオーダーを告げるものです。このときまでに注文を済ませます。パブを閉めなくてはならない時間というのは事実上なく、このときまでに注文を済ませた飲み物はパブにとどまって飲むことができます。かつてパブの営業時間を延長するように法律改正を要求する声があがりましたが、反対意見の主なものは、それによって酔っ払いが増えるのではないかというものでした。それに対して、現在の制度の下では、ラストオーダーの鐘の音とともに、駆け込みで大量の酒を注文する客が多く、短い時間で大量のアルコールを消費することこそ、酔っ払いを増やす原因になっているという意見もあります。

●再びイギリスより

実はこの号はイギリスから発行しています。現在、ケント県のキャラバン場に購入したモーバイルホーム(日本ではトレーラーハウスと言うそうですが)に9月初めまで2ヶ月の予定で滞在しています。スペインの夏の暑さと喧騒(夏休みは休暇を過ごす人たちがやってきて、一気に人口が増えます)を逃れようというわけです。ところが、今年は夏の当たり年のようで、イギリスでもこのところ暑い日が続いています。しかし、そこはイギリスの天気、こんな暑さと晴天は長くは続かないことを期待しています。

以前住んでいたビーン村よりさらに田舎のヨールディングという村が、わたしのイギリスでの拠点となっています。ヨールディングには、郵便局が1軒、よろず屋が2軒、パブが3軒(その昔は5軒あったようです)、かじ屋が1軒、小学校が1つ、教会もあります。それに、小さいですが図書館すらあります。郵便局兼よろず屋が1軒、パブが2軒、小学校が1つの600世帯ほどのビーン村よりは少し大きめと言えるかもしれません。そうそう、忘れてはいけません。ここには鉄道の駅があります。もっとも1時間に1本しか電車は走っておらず、ロンドンまでは乗換えを含め1時間半ほどかかります。駅舎に店もありますが、切符は売っていません(実のところ、自動券売機すらないので、この駅では全く切符を買うことができないのです)。この店の主要取り扱い商品は芝刈り機で、子供用のビニールのプールや魚釣りの餌も売っています。

この辺りで気がつくのが、実にパブの多いこと。周りに点在する小さな村々にはそれぞれ必ず2軒から3軒のパブがあります。上の分類で行くと、典型的な田舎のパブが多く、どこも個性的ですてきなパブばかりです。週末のパブ巡りが趣味になりそう。

この辺りにパブが多いのもうなづけます。ケントと言えば、ビールの原料ホップの生産で有名なところ。中には自家製ビールを作っているパブもあるそうです。ところが、最近では輸入ホップのほうが安いということで、ホップ畑が姿を消しつつあります。実際わが家の裏にもホップ畑が広がっているのですが、今年は作付けもなく、雑草が生い茂っています。ホップを乾かすためのオーストハウスはケントの田園風景には欠かせないものですが、最近では本来の目的よりはインテリア用のドライフラワーの製造に使われ始めているということです。

というわけで、今回はまずパブについてざっと一通りのご紹介をさせていただきました。次回からは、パブでのお作法編です。

[バックナンバー一覧を見る] [トップページに戻る]