Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第56回の目次
● 「イギリスつまみ食い」流パブガイド〜勘定編〜
● イギリスからさようなら

● 「イギリスつまみ食い」流パブガイド〜勘定編〜

今回で3回に渡る「イギリスつまみ食い」流パブガイドもおしまいです。  最後は、スマートな技術が要されるお勘定のしかたについて。

イギリスのパブは基本的に現物引き換え現金払いです。注文のしかたは前の号でご紹介しましたが、飲み物が出てきた後、店員が合計金額を告げますので現金を渡します。支払いと引き換えに飲み物を受け取るということになります。スペインの我が家の近くにもたくさんのイギリス式パブがありますが、スペイン式バーとの大きな違いはこの点です。スペイン式バーではテーブルに勘定をつけ、最後に精算という形になります。(だからよく間違いがあります。最後に「あなた、全部で何杯飲んだ?」と聞かれることもあります。)イギリスのパブではチップ(tip)は必要ありません。飲み物を売ってもらうだけで、特別なサービスを伴わないからです。

こう書くと、パブでのお勘定はいたって単純明快なように見えますが、複雑で微妙なのはグループで飲みに行く場合です。パブでは、割り勘はありません。代わって、イギリスには「ラウンド」(round) という習慣があります。つまり、1人が全員の飲み物を注文し、その代金をすべて支払います。1杯目が飲み終わると(もちろん飲むスピードには個人差がありますから、このタイミングの見計らいが経験と技術を要するところです)、今度は別の人が全員分を注文し、支払いをします。このようにして順番でおごりあうのがイギリスの習慣です。大勢で飲みに行って、全員が気前のいい人(あるいは気前がいいと思われたい人)だったりすると、最後にはぐてんぐてんに酔っ払うことになります。どう言うわけか、男性の中には他人のラウンドの時は飲み物を断らない人が多く、手をつけていないパイントグラスを2つも3つも自分の前に並べてマイペースで飲んでいる人がよく見られます。

もっとも、通常問題になるのは、ラウンドを受け持たない人のほうかもしれません。最近のBT(ブリティッシュ・テレコム、イギリスの電話会社)の一こまマンガの新聞広告にこんなものがあります。"Who wants to get the next round in?"(次にみんなにおごる人?)という吹き出しが左端の人から出ていて、同じテーブルについている4人が"Me!"と我勝ちに手を上げています。その下に、「何事もBTの電話料金体系のように単純だったらいいのにね」というキャプションがついています。やはり、ラウンドというのは、イギリス人にも複雑なのでしょう。実際、おごってもらうことはあっても、決して自らラウンドを受け持たないと評判の人もわたしは知っています。

女性のみなさんにはうれしいことに、女性はラウンドを免除されるという伝統があります。これは、女性がパブに出入りするようになったのは比較的最近のことであるということから来ています。60年代には、まだ女性だけでパブに入るのは世間的に許されなかったという地方もあるそうです。したがって、女性は男性同伴でパブに行き、注文は当然男性がするべきことになっていました。この伝統が今でも続いているため、男女混合のグループ(特に複数のカップル)で飲みに行った場合、通常女性は飲み物の支払いをしなくてもよいことになっているわけです。しかし、最近はラウンドに進んで加わる女性も増えてきました。空になった自分のグラスを眺めながら、だれか男性が注文をしてくれるのをじっと待っているよりはずっといいことだと思います。

というわけで、女性のわたしにはラウンドを受け持った経験はないのですが、わたしが男性だったらまず早い段階で自分のラウンドを済ませてしまうでしょう。知り合いの集まるパブで飲んでいたりする場合、後に行くと人数が増えてくる可能性もあります。後から知り合いがパブにやって来た場合、先に来ていたうちの一人が「何を飲む?」と聞いてその人の飲み物を買うというのが通例のようです。次のラウンドからはこの人を加えた全員分を買うことになります。こうして早いうちにラウンドを済ませてしまえばケチという評判は立たないし、あまり金を使わずに済みます。この戦略の欠点は、あまり長居をすると2度目のラウンドが回ってきてしまう可能性があるという点でしょうか。

こうした複雑さを回避するため、パーティーなどの大人数が集まる機会では、まず最初に決まった金額を各人が出し合い、そこから全員分の飲み物を買っていくという方法を取ります。これを"whip"と呼びます。"Let's have a whip"(金を出し合ってそこから飲み物を買おう)、"We are holding the whip"(出し合った金から買っているんだ)などと言います。

パブに割り勘はないと言いましたが、レストランは割り勘が原則です。このときばかりは、イギリス人の尊ぶ公正さよりは単純さのほうが優先されます。だれかがほかの人より高いものを食べたとしても、ほかのみんなが3コース食べてひとりだけ前菜を注文しなかったとしても、きっぱり人数割りです。"CanI have the bill, please?"とウエーターあるいはウエートレスに勘定書きを頼み、勘定書きが来たらテーブルで精算をします。サービス料が含まれているかどうかをチェックしましょう(SCとさりげなく書かれていることもあるので要注意)。含まれていればチップは払わず、勘定書きの一番下に書かれた金額きっちりをテーブルに置きます。含まれていない場合は、10パーセント程度を目安にチップを含めた額をテーブルに置きます。もちろんチップは強請ではありませんので、サービスが悪かったと思えば、チップを置く必要はありません。逆によければ奮発してもよいでしょう。要はサービスに対する評価を金で表すということです。ここでテーブルを去ってもよいですし、きっちりの金がない場合には、つり銭を待つことになります。また、チップに適当な小銭がない場合にはつり銭を待ち、そこから適当な小銭をチップとして残します。

前の号でも触れた、カウンターで食べ物を注文するタイプのパブの場合(伝統的なパブにはこのタイプが圧倒的に多いのですが)、勘定は注文時にいっしょに済ませるところと食事の後に支払うところと両方のタイプがあります。どちらのタイプかは注文をした直後にわかります。合計金額を告げられればその場で支払い、言われなければまだ払う必要はありません。後者の場合には、食事が終わってパブを出る時点でカウンターに行き、勘定をします。両方の場合とも、チップは必要ありません。

さて、こうして注文が済み、勘定をして飲み物を受け取ったら、空いているテーブルを見つけて落ち着くことになります。が、イギリスのパブの場合、やはり伝統的な飲みかたは立ち飲みでしょう。ポールポジションはカウンター。ここが混み合っている場合には、人の通る妨げにならない静かな隅を選んで立ちます。パブでは立って飲むものという伝統的観念から、コップを置くちょっとした棚のようなものがあちこちに見られます。ここが立って飲むための場所です。もっとも、イギリス人が本当に立って飲むが好きなのかどうかは疑問です。イギリス式パブは、スペインの我が家の近くにもたくさんありますが、イギリス人を見ると、皆まず空いている椅子を探します。イギリス人だって、やっぱり座って飲むのが楽なのです。

最後に、パブを出るときコップ類はそのまま残しておいて結構です。店員が後でまとめて片付けに来ます。が、もしついでがあれば(特に裏のビアガーデンで飲んでいてカウンターの前を通って表の出口に行く場合など)、カウンターにコップを返しに行くととても喜ばれます。店員と目が合ったら、一言「サンキュー」を添えるのも忘れないでくださいね。もっと大きな「サンキュー」が返ってくること間違いなしです。

● イギリスからさようなら

前回の注文編でパブの飲み物のご紹介をしたところ、アルコールがだめとおっしゃる方から「パブはもちろんお酒を飲むとこなんですよね」というお便りをいただきました。飲めない方もご安心を。最近は複数のフルーツジュースを混ぜた果汁飲料においしいものが出ています。J2O(2は下付き文字で、ジェーツーオーと読みます)というのが売れ筋だそうです。これのオレンジ&パッションフルーツというのを飲みましたが、なかなかいけます。運転するので飲めないという人の中には(もっとも運転する場合でも、2パイントくらいまでなら平気で飲んでいる人も少なくありませんが)、アルコール分ゼロのビールを注文する人もいます。が、個人的にはアルコールゼロならほかのものを飲みたいと思います。普通のビールとはやっぱり味が違うと思うのですが。

わたしのイギリス滞在も残りわずかとなりました。この2ヶ月お天気に恵まれて、いったい何のためにスペインに引っ越したのか忘れてしまいそうです。たくさんのなつかしい人たちに再会し、久々に口にするイギリスの食べ物に感動し、近くにすてきなパブをたくさん発見しました。とても楽しかった2ヶ月でしたが、もうそろそろ帰ってもいいかなと言う気がしてきています。イギリスの生活にもだんだん慣れすぎてきたし(やっぱり 仕事をしていると生活が単調になります)、なによりもスペインに帰って隣人たちと顔をあわせるのが楽しみです。特にお隣りのアリーとトーシュとは今年はほとんどすれ違い状態。今回もわたしたちがスペインに到着すると、彼らは10日後にオランダに帰ってしまうのですが、久々に一緒に飲みにいくのが今から待ち遠しい思いです。熱波の去ったイギリスは、一気に夏から秋に移りました。スペインでは、あと2ヶ月は夏を楽しむことができます。今年のクリスマスはイギリスで過ごしたいと思っていますが、イギリスの寒くて暗い冬をもう1度体験したら、きっとスペインに引っ越した理由を再認識するでしょう。

さて、このパブガイドシリーズの最初に触れたハリー・ポッターのファンブックですが、すでに書店に並んでいるそうです。

「ハリー・ポッター」の秘密の学校3年目 クイズ&新情報編
ローリングを愛する魔法の会・著

 

この本の中では、第2章でホグスミードのパブ「3本の箒」のマダムを務めさせていただいております。イギリスの食べ物・飲み物や食文化に関するおしゃべりのほか、イギリスのパブ事情についても書かせていただきました。イラストですが、わたし自身もあちこちに出没しております(美人に描いて下さいとお願いしたら、本人とは全くわからなくなってしまいました)。前号のあとがきで触れました、スペインでの隣人パットとパットの経営する南ロンドンのパブの写真も載っています。書店で見かけられたら、ぜひお手にとってご覧くださいね。

読者の方々からトレーラーハウスの話を聞かせてくださいというリクエストをいただいております。あとがきでは触れる機会がなかったので、近いうちに1号を費やして、個人的な体験を交えながらイギリスのトレーラーハウス事情についてご紹介したいと思っています。

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