Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第57回の目次
● イギリスのトレーラーハウス事情
● 昔のイギリス人の夏休み

● イギリスのトレーラーハウス事情

イギリスから発行した前回3号のあとがきの中で、イギリスでの拠点として使っていたトレーラーハウスに触れたところ、珍しいのでぜひトレーラーハウスの話を聞かせてくださいというお便りをいただきました。というわけで、今回はイギリスのトレーラーハウス事情をご紹介したいと思います。

ここではトレーラーハウスという日本での呼称を使いますが、イギリスでは"mobile home(s)"というのが一般的な呼び名です。しばしばキャラバン(caravan)とも呼ばれますが、ニューエージトラベラー(新時代の流浪の民)というポリティカリーコレクトな呼び名で最近は知られる、住所を定めないで生活する漂泊の人々の移動式住居という印象が強いため、この名称を避ける人もいます。保険業界では、自動車で牽引する比較的小型のキャラバンと区別するために、"static(動かない)caravan"と呼んだりしているようです。この表現に見られるように、モーバイルとは名ばかりで、モーバイルホームを実際に動かす人はいません。工場から運ばれてくるときにも、大型トラックの荷台に積んで運び、実際に牽引されることはありません。税金の定義上、車輪が申し訳程度についてはいますが、「実際に牽引には使わないでください」と製造元の注意書きがついています。また、一度キャラバン場に設置されると、電気・上下水道(ところによってはガスも)が本管に接続されるため、簡単には動かすことができません。

日本でもトレーラーハウスはだんだんになじみが出てきているようですが、キャンプ場に設置されたものを数日間借りるという形が多いのではないでしょうか。イギリスではトレーラーハウスを買って別荘として使う人が多く見られます。これは、1ヶ所滞在型がイギリス人の典型的な休暇の過ごしかたであることと、休暇を毎年同じところで過ごすのを好むイギリス人の保守的性格を反映しているようです。また、都会に住む人が週末をさほど遠くない田舎で過ごすのにもトレーラーハウスはよく使われます。気の向いたときにいつでも自分の家を後にして、異なった風景のもう1つの自分の家でくつろぐ、それがイギリス人好みの余暇の過ごしかたのようです。

トレーラーハウスは通常キャラバン場運営者を通して購入します。まずどこにトレーラーハウスを買うかを決めます。キャラバン場の位置(海の近く、山の近く、交通の便など)や付属施設(プール、バー・レストラン、クラブハウス、コインランドリー、コンビニなど)などを考慮に入れます。わたしたちが現在のキャラバン場を選んだ理由は、鉄道の駅に近く(空港から電車で行ける)、電話が引けて(このようなところはあまり多くありません)、静かで、小さな子供のいる家族を対象とした休暇用のキャンプ場ではないという点です。

こうしてキャラバン場を決めたら、次はその敷地内でトレーラーハウスを設置する場所を選びます。それから、キャラバン場を通してトレーラーハウスを製造元に注文します。メーカーによっては注文に応じてデザインできるところもあるようですが、大手メーカーの場合には、いくつかのモデルのうちから予算に応じて選ぶという形になり、カーテンの模様やソファの柄、システムキッチンの素材など、内装は選べないところがほとんどです。(たいてい田舎のコテージ風というのがテーマになっているようで、黄・オレンジ系の花柄が多いようです。トレーラーハウスの従来の目的とその典型的な利用者の趣味を考えればもっともなのですが、後に述べるようにトレーラーハウスの利用目的が変わってきているため、このあたりも見直されるべきではないかと思われます。)

トレーラーハウスの値段ですが、大手メーカーの1つ、ウィラビー社の例を取ると、約17,000ポンド(約316万円)から最高級モデルで34,000ポンドちょっと(約633万円)。サイズのほうは、奥行きは約3.6メートルで、長さは約9.6メートルから約11.7メートルまであります。ほかの大手メーカーのモデルには奥行き4メートルというものも見られます。間取りは、2LDKから3LDK、上位モデルになるとトイレが2つ、風呂場とシャワー室の両方備えたものまであります。また、最近のモデルは2重窓になっており、セントラルヒーティングに暖炉までついていて、近代的な家並みの快適さです(ただし、外壁の構造上、やはり断熱効果はレンガ造りの家には劣ります)。前述の通り、家具つきですので、トレーラーハウス購入後の出費にはあまり大きなものはありません。

予算としては、これに電気・水道などの接続工事費を計算に入れることになります。わたしたちのトレーラーハウスのある村は3年前から大雨が降ると洪水が起こることで有名なところです(3年前にメドウェイ川の上流に氾濫防止のための関を作ったのが原因で、そのすぐ下流にあるこの村がとばっちりを受けることになりました)。洪水対策としてここのキャラバン場では、トレーラーハウスの下に発泡スチロールの塊を取り付けています。洪水になるとこの発泡スチロールの塊がトレーラーハウスを水の上に浮かせることになります。1つの塊で1トンまで浮かせることができるそうです。しかしこれだけだと、洪水の翌朝目が覚めたら隣町にいたなどということになりかねませんので、トレーラーハウスを地面に固定しないといけません。鋼材でコンクリートの地面に固定されています。この鋼材は通常「く」の字型に折りたたまれていますが、水位が上がると、それにあわせて徐々にまっすぐになります。こうして、トレーラーハウスは位置を変えずに水の上に浮くわけです。なかなかよくできた仕組みですが、その国土の大部分が海抜ゼロメートル以下というオランダで開発されたシステムだそうです。水道管などは蛇腹状のものが使われていますが、これもトレーラーハウスが浮かんだ場合にそれに合わせて伸びるようにという配慮からです。ガスはここではプロパンガスのボンベを使っていますが、これも金属のかご状のものでトレーラーハウスに固定されており、トレーラーハウスが浮くと一緒に浮くようになっています。パイプガスの導入も考えたそうですが、トレーラーハウスが浮くときにガス管が破損する可能性を考えると危険なため、ボンベを使っているということです。ここではトレーラーハウスはもともと地面から1メートルちょっとの高さに設置されているのですが、この浮上システムのおかげでそこからさらに1メートルくらいは水位が上がってもトレーラーハウスは浸水しないことになります。このシステムはすでに機能することが証明済みで、今年1月末の大雨のときには、このキャラバン場のトレーラーハウスが水面に浮いているのがニュース番組で紹介されました。

中古のトレーラーハウスを購入する場合には、キャラバン場の事務所に売り物件があるかどうかを尋ね、キャラバン場を通して購入します。あるキャラバン場で買ったトレーラーハウスを別のキャラバン場に移動して利用するという例はわたしの聞いた限りではありません。このようにトレーラーハウスの売買は中古にせよ、新品にせよ、すべてキャラバン場を通して行われているため、普通の住宅ほど自由に流通していません。これを懸念する声もあります。

一度トレーラーハウスを購入すると、後は毎年借地代を払うだけということになります。だいたい年間(12ヶ月)2,000ポンド(約37万6,000円)程度というのが最近の相場のようです。もっとも、休暇用のトレーラーハウスが中心のキャラバン場には12ヶ月開いているところは多くありません。多くが冬の期間(11月〜2月)は閉鎖されるため、借地代も8ヶ月分となり、もう少し安くなります。借地代には水道代も含まれることが多いようです。電気代も含まれるキャラバン場もあるようですが、わたしたちのキャラバン場では電気はメーター制になっています。

これまでトレーラーハウスは休暇あるいは週末用の別荘として主に利用されてきましたが、最近は本宅として使う人が増えてきています。やはり第一の理由は普通の家と比べて安いことでしょう。ここ数年来の住宅価格高騰の結果、イギリスの平均住宅価格は10万ポンド(約1,860万円)を超えました。最近特に多く見られるのが、家を売り払い、その代金で住宅ローンを返済し、残った金でトレーラーハウスを購入してそこに移り住むというケースです。借金のない生活はだれもの夢でしょう。家の値段が購入時の2倍になったというケースもよく見られる現在、住宅ローンを返済しても手元にかなりの利益が残るようなったため、このようなことが可能になったわけです。金銭的に余裕のある年配の夫婦には、トレーラーハウスの豪華版、パークホーム(park homes)も人気です。

トレーラーハウスの利点は、安いというほかにもいくつかあります。まず、ほとんどのキャラバン場は風光明媚の地に位置しますので、すばらしい景色を楽しむことができ、広大な土地を自由に利用することができます。実際に土地は所有しませんが、その保守に時間と金を使うことなく、恩恵にあずかることができるわけです。次に、普通の家の場合には当該の地方自治体に住民税を納めなくてはいけませんが、トレーラーハウスの場合にはその必要はありません。

短所としては、家のように価値が上がることはないという点が上げられるでしょう。かつては中古となると急速に価値が下がったものですが、最近はトレーラーハウス人気から価値はかなり保たれているようです。また、製造後10年を過ぎた古いトレーラーハウスを許可しないキャラバン場もあったようですが、最近では、外装が見苦しくない限りは10年を超えるものも許されているようです。しかし、イギリスでは普通の家が100年、200年ももつことを考えると、その寿命がずっと短いということは否めません。また、強風や火災などの災害に対しても普通の家より弱いと言えるでしょう。

トレーラーハウスを本宅として使う人が増えてきているとはいえ、法律上、トレーラーハウスを定住所として使うことはできないそうです。実際、わたしたちのキャラバン場にも、11月から2月まで間、連続28日以上続けてトレーラーハウスに滞在することはできないという規則があります。しかし、もちろん家の出入りを監督している人はいませんし、規則をきっちりと守りたいという奇特な人には滞在28日目に家族・知人の家に泊まりに行くという手があります。しかし、トレーラーハウスの住所は銀行の口座開設などにはまず使えないでしょう。クレジットカードの申請やローンの申し込みなどの時には、与信審査で確実に落ちます。残念ながら、定住所としての経済的信用度はないようです。

わたしたちのお隣りのジョンとパットは、かつて同じキャラバン場でトレーラーハウスを本宅として住んでいました。洪水などだれも予期していなかった頃です。ところが3年前の大雨でトレーラーハウスは浸水し、2人はホームレスとなりました。この窮状を救ってくれたのは地元の市役所でした。2人に公営住宅をあてがってくれたのです。住民税も払っていなかった夫婦に公営住宅を割り当ててくれたとは、実に恩情の深いお役人たちです。ここがイギリスの社会制度のいいところでしょう(乱用する人さえ出てこなければ)。こうして、2人は近くの公営住宅と修復したトレーラーハウスとの2つの住みかを持つこととなりました。現在はキャラバン場は8ヶ月契約で、冬の間は公営住宅で過ごすそうですが、夏の間は1週間に2日洗濯をしに家に戻るくらいで(トレーラハウスに洗濯機はないので)、ほとんどをトレーラーハウスで過ごしています。しかし、彼らのトレーラーハウスには洪水対策の装置が設置されていません。これがないと保険会社は保険を引き受けてくれないのですが、ジョンは自分たちのトレーラーハウスには保険料を払う価値もないからと言います。洪水で大切にしていたものすべてを失ったときの心の痛手はよほど大きかったのでしょう。トレーラーハウスでの生活はこの後すっかり変わってしまったと言います。もう1度トレーラーハウスが浸水することがあったら、彼らはきっとトレーラーハウスを捨て、もう2度トレーラーハウスを買うことはないのでしょう。

 

もう一方のお隣りは20キロほど離れたやはりケントの村に住む60代のご夫婦。彼らも夏の間だけの自宅とトレーラーハウスとを行ったり来たりしています。隣人の騒音と迷惑な近所の子供たちから逃れるために、トレーラーハウスにやってくるのだそうです。ジムとアイリスは、このキャラバン場にトレーラーハウスを持って14年というふるがおです。彼らもそうですが、このキャラバン場では、ほとんどの人がすばらしい庭を持っています。キャラバン横の幅4〜5メートルほどの土地が割り当てられているわけですが、デッキを設けたり、敷石を敷き詰めたり、花壇を作ったりと、一軒一軒工夫をこらした美しい庭が見られます。中には立派なレンガ造りの塀に囲まれたトレーラーハウスまであります。「イギリス人の家は城」と言いますが、イギリス人のトレーラーハウスも城なのですね。

このキャラバン場の50〜60パーセントはここで1年を過ごす定住者のようです。トレーラーハウスから仕事に通っている夫婦もいます。彼らは仕事に行っている間、1日中ドアを開けっ放しにしています。キャラバン場の入り口には磁気カードで操作するさくがあり、カードを持った住民か入り口の事務所で許可を受けた人しか出入りできないことになります。そこで、鍵をかけないで出かける住民が多いのです。キャラバン場には、独特の地域社会意識があります。連帯感とも言えるでしょう。新参者がやってくると、喜んで勝手を教えてくれます。車のない人には、必ずだれかしら、買い物に行くときに車に乗せて行ってくれます。目が会うと挨拶が交わされ、あちこちで井戸端会議が始まります。キャラバン場には小さな田舎の村の精神が生きています。

注:為替レートには1ポンド=186円を使用しています。

● 昔のイギリス人の夏休み

このキャラバン場のあるヨールディングという村はロンドンのイーストエンド出身の60代以上の人にはたいへんなつかしいところのようです。戦前から戦後しばらくの間、イーストエンドの労働者階級の人たちが休暇を過ごしたのは、ここのホップ農場でした。前の号にも書いたようにホップはビールの原料です。つるになったホップの実を摘み取るというかなりたいへんな肉体労働ですが、それでもイーストエンドの子供たちは毎年ホップ農家から誘いの手紙が来るのを楽しみにしていたそうです。ホップの収穫の日が決まると、朝早くイーストエンドからロンドン・ブリッジ駅まで手押し車に鍋釜を含めた手荷物を積んで歩いていきました。夜は納屋の中に積んだわらの上で眠り、自炊をしたそうです。一日の収穫が終わると、摘み取ったホップの実の量に応じて賃金をもらい、その金を持って夜パブに行くのが楽しみだったということです。働く休暇とは、昔の人たちの生活はずいぶん慎ましかったものですね。今日では考えられないことです。

[バックナンバー一覧を見る] [トップページに戻る]