Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第60回の目次
● イギリスつまみ食い流美容院ガイド(2)
● リアリティーTVの美容院

● イギリスつまみ食い流美容院ガイド(2)

前回はシャンプーが終わり、カット台に移ったところまででしたね。

鏡の前に座ると、もうちょっと経験を積んだ美容師さんがやってきて、さて、どういたしましょう?と聞きます。そこで、横は耳が隠れるくらいの長さで、トップは段をつけて…という具合に注文を述べます。ちょっと複雑になるようでしたら、希望のスタイルの写真を持って行って見せるというのもよいでしょう。一番簡単なのは"Just a trim, please." スタイルは同じで伸びた分だけ(1〜2センチ)カットしてくれます。

わたしの経験では、カットをした後「お流し」をしてくれたのは過去にただ1度、日本人経営の美容院で最初にカットをしたときだけです。そのときには「お流ししましょうか?」と聞かれたので、「イギリスでは珍しいな。さすが日本人の美容院だ」と感心しながら「お願いします」と答えたものでした。2度目に訪れたときからはお流しはありませんでした。

前号で美容院に行った後にはできればまっすぐに家に帰りましょうとお勧めしたのは、このためでもあります。この後ドライヤーを使ってセットに入りますが、スタイリングの際にたまたまブラシに引っかかり落ちた髪を除けば、すべてそのまま頭の中に残ることになります。美容院を出て頭を振ると短い髪がぱらぱらと落ちてくるというわけ。

さて、ドライヤーを使い、ときにはムースやジェルなどを使ってセットが終わると、美容師さんが鏡を持ってきます。これを正面の大きな鏡に合わせて後ろを見せてくれますので、一応チェックするふりをします。"Brilliant!"や"Excellent!"などとほめておきましょう。こんなおおげさな表現は歯が浮いて言えないという人は、"It looks much better now."(前よりずっとよくなったわ)くらいにとどめておきます。

この最後の儀式が終わると、美容師さんが受付のデスクに案内します。もしこの時点で美容師さんから受付担当の人にバトンタッチするようなら、"Thank you"と言ってそっと美容師さんにチップを渡してもいいでしょう。美容院によっては、カットをした美容師さん自身が会計をすることもあります。

さて、問題のお値段ですが、これは立地等さまざまな条件により、ピンからキリまであります。ロンドン中心地の有名「サロン」では、ショートヘアでカットが40ポンド前後(約7,800円)のところもありますし、ロンドン周辺の町の床屋に毛が生えたような美容院では12ポンド(約2,350円)程度でシャンプー付きのカットとセットをしてもらえるところもあるようです。また、年金生活者(男性65歳・女性60歳以上)のための特別割引料金や割引日(たとえば毎週火曜日といった具合)を設けている美容院もあります。これを利用する場合には年齢を証明できるものを忘れずに。

チップの金額ですが、これもやはり美容院によるでしょう。だいたいの目安としては(高級サロンの有名スタイリストでない限りは)、1ポンド程度と考えておいてよいのではないかと思います。もっともこのチップの額はわたしがイギリスに住み始めた14年前に知人からアドバイスされた金額ですから、インフレを考慮するべきなのかもしれません。

チップはシャンプーをしてくれた人とカットをしてくれた人とそれぞれに渡します。チップを渡すタイミングはいくつかあります。まず、シャンプーが終わった時点でシャンプーをしてくれた人に、カットが終わった時点でカットをしてくれた人に渡すという方法です。この場合、チップは小銭のほうがよく、1ポンド硬貨がやはり適当でしょう(カット料金が20ポンド程度とすると、1人2ポンドのチップはちょっと多すぎるような気がします)。小銭を持ち合わせている場合にはこれでいいですが、小銭がない場合、または最初にバッグを預けてしまった場合、あるいは上記のタイミングをのがしてしまった場合などは、会計のときに「お釣りは結構です」あるいは「お釣りはシャンプーをしてくれた人とカットをしてくれた人に渡してください」と言うこともできます。つり銭が多すぎるような場合はいったんつり銭を受け取っておいてから、シャンプーをしてくれた人とカットをしてくれた人に1ポンドずつ渡しに行くという方法もあります。

チップは慣れないわたしたち日本人にとっては頭の痛い問題ですが、あまり深く考えないで、臨機応変に対応しましょう。もし上のいずれの方法でも適当な小銭が手に入らなかったり、タイミングが悪かったりしてチップを渡せないような場合は、その美容師さんの運が悪かったのだと考えてあまり悩まないようにします。無理して渡すほどのものでもないからです。

さて、今度は床屋さんの話です。ほとんどの美容院は男女兼用ですが、美容院を利用したいが、場違いではないかと心配という男性は"Unisex"という看板を探すとよいでしょう。ここなら確実に男女兼用です。イギリスの床屋の客は男性ばかりのようで、女性が入っているのを見かけたことはありません。したがって、以下はわたしの体験談ではないですが、できるだけ事実に忠実にお伝えしたいと思います。

美容院が予約制なのに対して、床屋はほとんど予約無しです。適当な時間に出かけて行って自分の番が来るまで待つか、あまり混んでいるようなら出直します。

うちの夫がかつてイギリスで行っていた床屋では3人の理容師さんが働いていましたが、ここは独立採算制で、それぞれ1客の椅子の借り賃を大家に支払い、客が払う散髪料はそれぞれ担当した理容師さんのポケットに直接入ることになっています。やはり理容師さんにもうまい人とそうでない人がいるらしくて、夫は自分の番が近づくとお気に入りの理容師さんが早く前の客の散髪を終えることを必死に祈っていたそうです。こうなると、予約制の美容院のほうが美容師を指名できていいかもしれませんね。

自分の番が来たら散髪用の椅子に座り、希望を述べます。洗髪は別途料金ですので、洗髪を希望する場合には"Wash and cut, please."と特に指定しましょう。

ここでも"Just a trim, please."は便利なフレーズです。さらにもっと便利なのが、床屋独特の番号指定です。「ナンバー・フォー・プリーズ」というように使います。この番号は電動バリカンのくしの長さを表します。ナンバー1が一番短く、ナンバー5が一番長くて初心者には無難です。ちなみにこの番号はヨーロッパ共通なのか、夫がスペインの床屋で「ヌメロクアトロ・ポルファボール」と言ったところ立派に通じたそうです。

散髪が終わると、熱い蒸しタオルが出てきて…というわけにはいきません。散髪が終わると、それでおしまい。顔剃りは別勘定です。散髪とは別に注文しましょう。

すべてが終わったら椅子から立ち上がり、その場で会計を済ませます。料金の相場は散髪だけで7ポンド(約1,400円)前後。床屋でのチップは美容院ほど慣習として定着していないようです。これは、散髪という基本サービスに付帯するほとんどのサービスは別勘定になり、それぞれに金を払うので、本来チップの対象となるべき、好意的にしてくれた特別なサービスや心遣いに当たるものがないからではないかと思います。

さて、その昔から床屋には、ただ単に髪を切り顔を剃るだけではなく、いろいろな役割がありました。外科手術も施す外科医として医学にかかわっていた時代もあります。また、比較的最近まで男性用避妊器具も販売していました。"Something for the weeked?"というのがその有名な言い回しです。

歴史上もっとも悪名高い床屋と言えば、18世紀にロンドンのフリート・ストリートで営業していたスィーニー・トッドでしょう。彼の話は芝居や映画・オペラとしてすでにご存知かもしれませんが、散髪にやってきた客を地下室に連れて行き、ばらばらにした後、愛人にミートパイを作って売らせていました。刃物の扱いに慣れてすぎるのも、こわいかもしれません。

思ったより長くなってしまった後編ですが、最後にもう少し。イギリス人の友人が「美容院って大好き。みんながちやほやしてくれるのって最高」と言っていましたが、彼女はまだ日本の美容院を見たことがありません。

日本の美容院とイギリスの美容院とのサービスの差はやはり客に対する心遣いから来るでしょう。たとえば、シャンプー時に顔にタオルをかけてくれる、そんなちょっとした点です。かなり昔の話になりますが、友人が引っ越して最初に行った近所の小さな美容院は、シャンプーのときにタオルをかけないという東京では珍しいところでした。シャンプーの間、彼女がその大きな瞳で中年男性の美容師さんをじっと見つめていたところ、いたたまれなくなった美容師さんがタオルをかけてくれたそうです。シャンプー中に目をつぶるか、開きっぱなしでいるかというのは、日本女性にとってはちょっとした問題ではないでしょうか。タオルをかけてくれればその問題は簡単に解消され、タオルの下で目をつぶってゆったりとくつろぐことができるのですが、タオルをかけてくれないイギリスの美容院では(日本人経営の美容室ですら)、わたしは目をつぶることにしています。理由はシャンプーや水が目に入るから。

美容院が大好きというわたしの友人が日本の美容院に行ったら、いったいどう思うでしょう?至れり尽せりの細かい心遣いに加え、コーヒーまで出てきて、天国とはこんなところだと思うかもしれません。

● リアリティーTVの美容院

リアリティーTVというのがここ数年イギリスのテレビ番組の主流になっています。イギリスのテレビファンとしてはたいへん嘆かわしい傾向ですが、その中で美容院を舞台にしたのが"The Salon"。カットや毛染めなど髪の手入れのほかに、マニュキュア・全身マッサージ・インスタント日焼けなどの技術もほどこす総合美容サロンでの出来事をカメラに収め、それを編集せずあるがままに放映しただけの番組で、放映時間以外はインターネットでもその風景を見ることができます。かつての栄光が忘れられない元有名人や、テレビに出たい普通の人たちがこのサロンにやってきます(現在はシリーズ休止中)。

前号でバッグや上着は預けても安心ですと書きましたが、このサロンの美容師リカルドが客から預かったバッグを物色したことが問題になったことがありました。「リカルドを解雇するべきかどうか」というので視聴者からの投票になりましたが(視聴者投票で番組参加者を振り落としていくというのも、リアリティー・ゲーム番組のパターンの一つ)、こんなのは視聴者が決める問題ではなくて、経営者の判断でしょう。

投票の結果は見逃しましたが、リカルド君は今は美容師を辞め、リアリティー番組スターとしてテレビ出演をしているようです。

さて、今年は夏の訪れが遅かったペドロランドですが、いよいよ本格的な夏になりました。連日30度を越える暑さです。明日には涼しいイギリスに向けて出発します。今年も7〜8月はイギリスで過ごす予定です。もっとも、夏の間ペドロランドを離れる最大の理由はその混雑と喧騒にあります。この辺りは7〜8月の夏休みシーズンには、マドリードや北ヨーロッパから休暇を過ごす人たちが押し寄せて、人口が何倍にも膨れ上がります。道路は渋滞、駐車場は満杯、レストランや店や海辺は大混雑といった具合で、快適な生活をおくるのが難しくなります。そんなわけで、イギリスに避暑を兼ねて出かけるわけですが、去年のような猛暑になったら、あまり避暑の意味はないかもしれません。

今年の夏もイギリスからいろいろな話題をお届けできたらいいなと思っています。では、また次号でお会いしましょう。

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