Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第62回の目次
● 新たな英国病〜binge drinking
● 日本のドアはなぜ外側に開くのか?(読者のみなさまからのお便り)

● 新たな英国病〜binge drinking

日本人にはアルコールを分解する酵素が先天的に欠乏しているため、酒に酔いやすいという説を聞いたことがありませんか。年末・年始にかけての宴会シーズンがやってきますが、困りものなのがあちこちに開かれた小間物屋。そこで、こんな説がよく口実として使われますが、飲みすぎて失態をさらすのは日本人に限りません。アルコールを分解する酵素を具えているはずのイギリス人の中にも酔っ払ってみっともないまねをする人は少なくありません。

このところ、テレビや新聞でよく口にのぼる言葉が「ビンジ・ドリンキング」(binge drinking)。短時間で過度に酒を飲むことを意味します。「新たな英国病」と英国首相も呼ぶほど、その社会的影響は深刻です。

国庫にかかる負担は年間200億ポンドにのぼるとも言われます。まず、酔って暴力をふるう人たちを取り締まり、夜の繁華街をパトロールするための警察費用。そして、毎年30億ポンドが医療費としてアルコール関連の治療に使われています。これには、肝臓病など長期的な飲酒の結果に対する治療も含まれますが、過度の飲酒がもとで暴力沙汰となり、その結果怪我をして病院にやって来る人たちの治療費もばかになりません。病院の急患受付にやってくる患者の実に40%がアルコールがからんでの怪我によるものということです。また、酔った患者が看護婦など医療関係者に対して暴力を振るったり、暴言を吐いたりするのも問題となっています。

では、何をもって"binge drinking"と呼ぶのでしょうか。イギリス政府の定義によると、一度に10ユニット以上のアルコールを消費することだそうです。ユニットというアルコールの単位は日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、1ユニットは8グラムのアルコールを意味し、だいたいの目安は、小さなグラス1杯分のワインか、半パイント(284ミリリットル)のビールということになります。つまり、"binge drinking"とは公式には一度にワイン10杯以上、あるいはビールの大瓶約4.5本以上を飲むことということになります。イギリスの男性3人に1人、女性は5人に1人が、習慣的に(最低週に1度は)"binge drinking"をしているということです。

イギリス政府はヨーロッパ大陸の「カフェ文化」をイギリスに導入することによってこの傾向に歯止めをかけられることを期待しています。この「カフェ文化」が、通りにテーブルと椅子を出して、屋外でアルコールやコーヒーを飲むことではないとしたら、たぶん24時間酒を飲める環境というのがその意味するところなのでしょう(実際こういった南欧風の店がイギリスでも増えてきましたが、なにしろ気候が違いすぎます。幸い雨の降っていない日でも、屋外ヒーターをつけないといけません。そこまでして、外で飲まなくてもいいのに)。

"binge"という言葉は特に短期間あるいは短時間を表しますが、政府は"binge drinking"の原因は、パブやクラブの営業時間を制限する現在の法律に問題があると考えています。現行制度下では、パブの営業時間は午後11時まで、クラブ(イギリスでナイトクラブというと、若者が酒を飲みながら踊るところを指しますが、スペインでは売春宿を意味します)は午前2時までに規制されています。この法律は1915年、第一世界大戦前に制定され、その目的は兵器工場に勤める人たちが夜遅くまで飲んで翌朝仕事場に遅刻したり、二日酔いで生産性が落ちるのを防ぐためでした。

このやや時代遅れの法律が来年2005年に改定されると、パブやバー・クラブの24時間営業が認められることになります。この法改定の支持者の意見としては、「現行の営業時間制限のため、閉店までの限られた時間でたくさんの酒を飲もうという人が後を絶たない。そして、午後11時あるいは午前2時に一斉に大勢のアルコールの入った人たちがパブやバーから追い出され、他に行き場もなく路上にたむろするため、暴力沙汰や破壊行為などに走ることになる。パブやクラブの24時間営業によって、このような問題は解消するだろう」ということです。

ヨーロッパ大陸では(スペイン・イタリア・フランスなどの南欧諸国を指すようです)、バーの営業時間に制限がなく、ゆっくりとくつろいで家族や友達と節度を保ちながら酒を楽しむ。その文化をイギリスに輸入したい、というのが来年の法改正に託された希望のようです。ここスペインでは、客が1人でもいれば朝の2時でも3時でも、バーは開いています。しかし、営業時間を南欧諸国なみに延長することで、"binge drinking"を止めることはできるでしょうか。

「カフェ文化」にはバーの営業時間以上の違いがあります。酒に対する文化の違いでしょう。イギリス人の特に若者の間では、「酒をたくさん飲んで大騒ぎをすること=楽しい時間を過ごすこと」という観念があるように思います。スペイン人は酒を飲まなくても、アイスクリームやジュースでダンスフロアに上がって、踊りを楽しみます。音楽があればアルコールは必要がないのです。イギリス人は最初の1〜2杯くらいでは人前では踊れません。また、日本人は自意識がなくなるまで酒を飲まなくても、カラオケでマイクを握ります(もっとも、日本人のカラオケに対する姿勢はイギリス人とは根本的に違っていますが)。イギリス人の場合は、かなり酒が入って、やっと友人とグループで歌うという程度です。たぶん、イギリス人は自意識と羞恥心の強い民族であるということもあるのでしょうが、問題は「酒を飲むこと=楽しむこと」という既成概念です。

興味深いことに、イギリス人の酒の飲みかたは北欧諸国の人たちの飲みかたに似ているのだそうです。最近スウェーデンでは酒の専売制が緩和されましたが、この法律はかつて安いジンが出回っていた頃、あまりにも飲みすぎる人が多く、社会問題となったため、酒の販売を規制するためにできたということです。現在でもスウェーデンやノルウェーではアルコールにかかる税金は高率で、それゆえ酒類の値段は非常に高くなっています。アルコールの安いここスペインで、だらしなく酔っ払っているのはノルウェー人ということがよくありますが、理由は簡単に察せられますよね。

さて、その北欧的飲酒文化のあるイギリスに、南欧の飲酒店24時間営業体制を持ち込むことによって、"binge drinking"の問題は解消されるでしょうか。パブやクラブの営業時間が延長されようとも、「酒をたくさん飲むこと=楽しい時間を過ごすこと」という既成概念がイギリス人からなくならない限り、"binge drinking"は決してなくならないとわたしは思います。

● 日本のドアはなぜ外側に開くのか?(読者のみなさまからのお便り)

冒頭、年末・年始の話が出たところで、やっと11月に入ったばかりなのになんと気の早いことと思われた読者の方もいらっしゃるかもしれません。12月初めにはまたイギリスに行き、クリスマスを過ごした後、そこから日本に向かいます。久々の日本のお正月です。クリスマスはイギリス、正月は日本というのがわたしの念願でした。そんなわけで、早くも思いは12月に馳せています。

前回、なぜ日本のドアは外側に開くかという話題を取り上げましたが、これについて読者の方からお便りをいただきました。

まず、Fさんから「地震で建物が壊れた際に、内側に開く扉だと、扉が開かなくて家の中に閉じこめられる可能性がありますが、外側に開く扉であれば、扉が外へ出るため、家の中に閉じこめられる可能性がより低いと思われます」というご意見をいただきました。なるほど、地震という風土に基づいた理由があったわけですね。これは見落としていました。公団住宅など公的住宅ですべてドアが外開きになっているのは、住宅金融公庫の融資基準などの法的背景があるそうです。

伊藤@横浜さんからも「地震で建物にゆがみが生じたとき、ドアが外側にあくほうが内側よりも、あける可能性が少しは高くなると思うんです」というご意見をいただきました。やはり日本のドアが外に開くのは地震と関係があるようです。

また、いつもご感想を送ってくださる(ありがとうございます)長年の読者のほむらさんも、新居の設計を検討されているときのご自身の経験から考察してくださいました。「私なりにいろいろ住宅関連の本を渉猟した結果、『トイレの中で人が倒れた場合、外開きでないと救出できない!』という結論に達し、そこ(2階トイレ・編注)は外開きに決定しました。(そんなにしょっちゅう人が倒れる家でも困りますが)同じ理由で、日本の家屋のドアも、外開きなら、誰かが玄関で倒れてもすぐに助け出せる????」。日本の玄関は段差のある場合が多いので、確かに土間部分で人が倒れていたら、内側には開きにくいでしょうね。

同じくほむらさんのご指摘ですが、イギリスの住宅では「不審者が家に押し入ろうとしても、ドアでガードすることが可能。防犯性能は優れていますね」。外側に開くドアを引っ張って防ぐよりは、体当たりでドアを押して防御するほうがずっと楽なような気がします。ほむらさんは「日本の外開きの玄関ドアは、『迎え入れる』ためだとか何かで読んだような…」気がするそうですが、日本の玄関ドアは不審者が侵入するのを防ぐよりは親しい人たちを迎え入れるために作られているのかも。それも平和な昔のなごりなのでしょうが。

みなさま、ご感想とご意見をどうもありがとうございました。たいへん参考になりました。今後もご意見・ご感想を楽しみしています。

最後に、前回に関連してもう1つ。バーバリーはついにそのトレードマークである格子柄の野球帽の販売をやめたそうです。おそるべしフーリガン。長年かけて培ったブランドを2年かそこいらで台無しにしてしまうとは、その文化的影響はあなどれません。

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