Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第64回の目次
● イギリスの夏再び
● この夏の話題

● イギリスの夏再び

たいへんご無沙汰いたしました。配信元のまぐまぐさんによると、最後に発行したのは、なんと6ヶ月も前になるそうです。本当に月日が経つのははやいですね。今月中に発行しないと廃刊にするということなので、あわてて何か発信することにした次第です。そんなわけで、いろいろとあたためていた話題はあるのですが、短期間でまとめるのが難しいので、今回はとりあえず、近況報告を含めて、最近のイギリスの様子などお伝えしたいと思います。

イギリスに到着したのは7月7日の夕方。そう、あのロンドンでの同時爆弾テロがあった日です。フランス経由で車でイギリス入りしたのですが、入国審査も(最近は、フランス側のカレーでイギリスの入国審査をするようになったようです。もちろんイギリスの入国審査官がフランスまで出張しています。長い行列がなくて、これはなかなかいいシステムです)普段と変わりなく、高速道路の"Avoid London Today"という電光掲示板の表示を除けば、まったくいつもどおりでした(きっと、2012年のオリンピック開催が決まって、祝賀パーティーの人出でロンドンは渋滞しているのだろうなと思っていました)。そんなわけで、その夜、親戚縁者に「イギリスに着いたよ」という電話をしているときまで、爆弾テロについては全然知らなかったのです。

幸い、わたし自身の知人や家族に被害はありませんでしたが、義理の弟の会社の受付嬢が、キングス・クロス駅からの地下鉄の最後尾車両に乗っていて、爆風で軽い怪我をしたそうです。やっと電車から解放され、地上に出たところ、会社までそれほど遠くないと歩き出したら、今度は目の前でバスが爆発したということで、会社に到着したときにはショックで呆然としていたそうです。

テロを恐れて、自分の生活を変えてしまったらテロリストに屈服することになる、これまでの生活を続けることこそテロに打ち勝つ最大の方策と、翌週からいつも通りの生活を続けたイギリス人の健気さには感心しました。

今回のテロはイラク戦争の結果だ、イラクからイギリス軍を撤退せよと即座に主張した国会議員には即座に非難が浴びせられました。昨年のテロ直後の総選挙で、イラクからの軍隊撤退を主張した野党が圧勝したスペインとは大きな違いです(もっとも、自分たちに不利にならないように真実を隠そうとした与党の策が裏目に出たこともありますが)。このへんが感情で動くラテン民族と、大義名分を重んじるアングロ・サクソン民族の違いではないでしょうか。もっとも、イギリス国内でも、この件に関しては男女間で意見が分かれたようで、今後のテロを防ぐためにイラクから撤退すべきだと考える人は、女性では半数を若干越えました。女性は大義名分より感情で動くのか?それとも種族保存の本能から平和第一と思うのでしょうか?

これだけ大規模で同時に4箇所で爆発が起こったのは、さすがにIRAの活動華やかなりし頃でもなかったことです。そういう意味でショックは大きかったわけですが、もっとショックだったのは、その後の調査で自爆した爆弾犯人たちが、イギリスで生まれ育った移民第二世代の若者だったことでした。普段は地域社会の一員として、すっかり社会に溶け込んでいるように見えたのに、実際にはその社会に対してこんな悪意を持って生活していたということが、周りの住民を始め、イギリス国民にはたいへんショックだったのです。

この事件で思い出したのは、"Spooks"というBBCのテレビ番組です。イギリスの国内諜報機関MI5を舞台にしたスパイドラマなのですが、このシリーズの中の1話で、イスラム過激派がイギリス国内で生まれ育った少年を自爆テロに利用しようという話がありました。この番組を見たときに、わたしはイギリスで生まれ育った若者は物質的に恵まれた生活に魅力を感じて、自ら命を捨てようとは思わないだろうと思ったものです。この番組の中の登場人物もやはり同じことを考えて、天国よりこの世のほうがずっといいと少年を説得し、説得が効いただろうと思って少年近づいた瞬間に、この少年が手榴弾を爆発させました。この人は自分の誤った考えのために命を落としたわけです。

これまで異文化にはかなり寛容で、どちらかといえば、積極的に異文化を認め、尊重してきたイギリス国民でしたが、ここにきてその方針に疑問が感じるようになってきたようです。飼い犬に手をかまれて初めて考え始めたというところでしょう。今までは異文化を尊重するばかりに、元からのイギリス文化が逆に軽んじられているような部分すらありました。職場でクリスマスカードを飾ることが禁止されたというような話もその一例です。なぜかというと、異なった宗教の人たちがそれを見た場合に気を悪くするからとのこと。

お隣のフランスではどちらかというと、異文化を抑制して、自らの文化のほうに溶け込ませるという方針のようです。公立の学校で女生徒がイスラム教の頭巾を着用することを禁じたことがありましたが、これがイギリスでかなり話題になりました。当時は批判的な意見が多かったわけですが、ロンドンの爆弾テロ以来、フランスの文化政策を見習ったほうがよいのではないかという意見もよく聞かれます。

7月7日のちょうど2週間後に、同じく4箇所で同時テロを狙ったと思われる事件がありました。が、このときは爆弾は不発に終わり、幸い死傷者は出ませんでした。今度の爆弾犯人は移民一世たちで、数年前にソマリアから移住し、イギリスの市民権を獲得して、イギリスの社会福祉手当で生活しているという人も含まれています。これまでも、税金は一銭も収めず、手当をもらうばかりの移民たちに対する不満はかなりつのっていたのですが、この一件以来、移民に対する風当たりはさらに激しくなりました。

現在も、テロを推奨したり、他民族・他宗教に対する憎しみを増長するような外国人には入国を拒否し、すでにイギリス国内にいる場合には、国外追放するという草案を内務大臣が作成中です。イギリスは、移民に対する政策と異文化受け入れに対する姿勢の転換期に来ていると言えるでしょう。

さて、もっと軽い話題のほうですが、ついにピアノマンの身元が明らかになりましたね。ババリア地方の農家の息子でドイツ人、パリで仕事をしていたが失業して家に戻る途中だったとか。ある日突然口をきき始めて、今は故郷に戻っているそうです。父親は息子は本当に神経衰弱を患い、記憶を失っていたと主張していますが、そう言わずには済まないでしょう。実は記憶喪失ではなくて、口をきかなかっただけということだったら、警察と医療関係者の大切な時間とイギリスの国民医療制度の貴重なベッドと資源を無駄遣いしたことになります。日本のマスコミでは、この間にかかった医療費をピアノマンが請求されたと報道されているようですが、イギリスの新聞・ニュースを見る限りでは、そのような事実はまだないようです。請求される可能性があるという程度です。

イギリスにも無料で医療を受けられる国民健康保険制度がありますが、これは外国人旅行者にも適用されます。そのため、母国では満足な医療を受けられない人たちが観光客を装いイギリスまでやって来て、公立の病院に行くというこの制度の乱用例(health touristという名前で知られています)がこれまでも問題になっていますが、確かまだこの状況は変わっていないはずです。したがって、通常の状況でしたら、ピアノマンに請求書が行くことはないでしょう。もっとも、実は記憶喪失ではなくて、ただ単に口をきかなかっただけということになれば、納税者も黙ってはいないかもしれません。イギリス国民ですら、病院ベッドの空き待ちの人は少なくないのですから。

(このメールマガジンが発行された後、ケント県国民医療制度当局が発表したところによると、医療費は請求しないことにしたそうです。が、地元選出の国会議員で自身も医者であるストート氏はこれに強く反対して、ピアノマンをイギリスに呼び返して、本当に4ヶ月に渡る治療が必要だったのかどうかを明らかにすべきだと主張しています)

それにしても、マスコミ報道というのはあてにならないものですね。イギリス国内でも、4時間に渡ってピアノを引き続け、医療関係者を楽しませたとか言われていましたが、実は同じメロディーを繰り返し弾いていただけのようです。日本だけでなく、海外でも大きな話題になり、チェコではプロのピアニストが自分ではないと公式声明を発表しなくてはならなかったほど、噂が広まったということでした。今後もまだまだ話題になりそうですね。

● この夏の話題

この夏イギリスで一番の話題がクリケット。現在、宿敵オーストラリアとの国際試合("The Ashes")の4戦目が行われていますが、前の2試合が連続して息を呑むような接戦だったため、視聴率はサッカーの試合を上回り、会場もチケット売り切れにもかかわらず2万人の人が場外に並んだほどの人気です。今年はなかなかエキサイティングな選手が多く、わたしもシーズン初めからクリケットにこっているのですが、このオーストラリアのとの国際試合の2戦目の終盤は、あまりの緊張にテレビを正視することができませんでした。で、ハリー・ポッターの6巻を読んでいました。

(20年ぶりに両国の実力が伯仲しているということで、4戦目もたいへんな接戦の末、劇的なイングランドの勝利に終わりました。最終戦の5戦目は9月8日(木)に始まるということで、さらに注目されています。)

ハリー・ポッター6巻といえば、これも発売日前後はたいへんな話題になりました。原書で6巻を読もうという方々のために、「ハリー・ポッター6巻を英語で読もう!」というブログを7月初めから設けています。章ごとのあらすじやわたしの感想、本の中の英語表現についての解説などを載せています。興味のある方はぜひのぞいてみてくださいね。現在、28章までの内容をアップしてあります(30章で終わりです)。

http://half-blood-prince.seesaa.net/

(この後、30章までのあらすじが完了しましたが、ブログは継続中ですので、よろしく。)

では、次号でまたお会いしましょう。

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