Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第66回の目次
● 名前の話(2)
● "Who do you think you are?"

● 名前の話(2)

前号が届かなかったのではないかとご心配になられた方、ご安心を。最初に名前の話を取り上げたのはホームページ上で、このメルマガが始まる以前の1998年のことになります。「名前の話(1)」にご興味のある方は下記のURLをご覧ください。

http://www.tongarashi.com/~michie/anglo/back16.html#bk16b

さて、今回は、このときとはデータも話題も新たに、イギリス人の名前 について再度取り上げてみたいと思います。

前回では1997年の赤ちゃんの名前人気トップ10を掲げましたが、まず、今回は最新のデータをお届けすることから始めましょう。以下は英国政府統計局(National Statistics Office)がまとめた、2005年に出生届が出された新生児の名前のランキングに基づきます。

女の子男の子
1Jessica1Jack
2Emily2Joshua
3Sophie3Thomas
4Olivia4James
5Cloe5Oliver
6Ellie6Daniel
7Grace7Samuel
8Lucy8William
9Charlotte9Harry
10Katie10Joseph

女の子の名前では、9年前に第2位だったJessicaが第1位となっています。トップ10を見ると、イーという発音で終わる名前が6つも入っているのが目をひきますね。愛称にイーで終わるものが多いのと同じ理由で、柔らかい響きとそこから来る親しみ安い語感が好まれる傾向にあるのでしょう。

男の子の名前では、11年連続でJackが第1位の座に輝きました。が、実数としてはだんだんに下降気味であるということで、前年より14パーセント減でした。さて、来年はついに首位の座を明け渡すでしょうか

おもしろいのは、女の子の名前を選ぶときには、男の子の場合よりも親はもっと冒険的になるらしく、女の子の名前のほうが流行の移り変わりが激しく、バラエティーも豊富だということです。

前回も触れましたが、イギリスでは、基本的に名前は選ぶものであり、創作するものではないようです。多くの名前は旧約聖書やキリスト教の聖人の名前からとられ、名前に関しては日本ほど造語能力は高くなく、バラエティーの点で見劣りしていました。が、最近はトップ100に典型的なアイルランドやスコットランドの名前が多数入ってきており、イギリス人の名前を多彩なものにしています。Ewan、Callum(スコットランド)やLiam、Kieran(アイルランド)などがその例ですが、少し前までは、カラムという名前を聞いたら必ずその主はこてこてのスコットランド人と決まっていたものです。ところが、最近では必ずしもそうとは限りません。たぶん、こうした名前の有名人に影響されて、響きがいいからとか、イメージがいいからといったような理由で、自分の出自に関係なく、こうした民族色の豊かな名前を選ぶ親が増えているのでしょう。

多民族化と言えば、トップ100の中に、Mohammed(23位)、Muhammad(56位)、Mohammad(70位)とイスラム系の名前が3つも入っています。この場合は、上記のようにイギリス人が他民族の名前を借用した例というよりは、むしろ統計に含まれるイギリス住民の中に移民系の人たちの割合が増えてきたことを示しているのではないかと思われます。

以上は昨年誕生した新生児の名前でしたが、現在生存中のイギリス人全員の中で一番多い名前はJohnだそうです。これは上記のランキングでは70位に位置し、人気は衰える傾向にあります。が、その愛称であるJackのほうは堂々第1位。もともとは愛称であった名前が、その正式の名前を人気度で抜くということがよく見られるのも最近の傾向です。ほかにも、Harry(HenryあるいはHaroldの愛称)やCharlie(Charlesの愛称)が同様の例に当たります。特に、Harryはチャールズ皇太子の第2子の名前でもあり、堂々たる王子の正式な名前となっています。しかし、日本ではまだこの傾向を認識していないのか、日本のマスコミではヘンリー王子と呼ばれることが多いようです(ヘンリーという名前が伝統的に国王の名前として使われてきたことも、その思い込みの原因の1つかもしれません)。Harryは現在では立派な正式の名前なのです。

イギリス人の名前について特筆すべきこととしては、イギリス特有の階級社会との関連が上げられるでしょう。名前を聞いただけで、どの階級に属するかがわかることもしばしばあります。男の子の名前では、Jason、Wayne、Darren、女の子の名前では、Sharon、Tracy、Michelleといえば、まず間違いなく労働者階級の出だそうです。"Birds Of A Feather"というBBCのコメディー番組がありましたが、この主人公の庶民的な(悪く言うと品の無い)姉妹の名前が、TracyとSharonでした。わたしの知人にもTracyという人がいましたが、彼女のお姉さんの名前がやはりSharonで、この番組を思い出したものです。

中産階級の名前として典型的なのが、男性ではCharles、Edward、Nigel、女性ではFelicityとHarrietだそうです。Nigelと言うと、中産階級の優柔不断でなよなよした男を想像させるとうちの夫も言っていましたので、Nigelという名前は中産階級の名前としてかなり定着しているのでしょう。余談ですが、名前とイメージと言えば、日産のシルビアを一時期所有していた、夫の友人が、シルビアという名前は、パブのカウンターで酒を出す金髪女性を連想させると言っていたのを思い出します。名前のイメージというのは、それぞれの人がかつて出会ったことのある、その名前の人たちに対する印象によって形成されることが多いので、シルビアのイメージも人によって異なるのでしょう。この人が出会ったシルビアという名前の女性は、たまたまみんなパブで働いていたのかもしれません。

階級と名前については、ロジャー・ダーリントンという方のホームページを参考にさせていただきましたが、これによると、JasperやRufusという男性や、Camilla、Davina、Jemima、Petuniaという名の女性は上流階級の出である可能性が大きいということです(ピーターラビットシリーズのアヒルは、実はお上品なアヒルだったのですね)。

同じサイトの中で、ダーリントン氏が今では60歳代以上にしか見られない流行遅れの名前として男性の名前5つを上げていますが、そのうちの3つ(Arthur、Percy、Horace)がハリー・ポッターシリーズの登場人物の名前でもあるというのはファンとして興味深かく思いました。魔法界は万事に時代がかっていますが、名前も古いようです。Hermioneも現在では中年かそれより高齢の女性にしか見られない名前だというのを別の資料で読んだことがあります。また、Cedricもたいへん古臭い名前だと、日本でタクシーとして使われていた日産の車を見てうちの夫が申しておりました。

さて、ここまで、男の子の名前・女の子の名前と分けて書いてきましたが、日本の裕美さんや千春さん、千里さんのように男女に共通する名前というのもあります。Hilary、Lindsay、Leslie(あるいはLesley)、Kerry、Kelly、Ashely、Vivian、Jocelyn、Kimなどがその例です。フランシスもその一つですが、通常綴りで区別します。Francisとiを使うのが男性で、Frances とeになるのが女性です。だいたいこういった男女区別の付かない名前で、学校でいじめられるなどの害を被っているのは、概して男性のほうが多いようです。その結果なのか、あるいはその原因なのか、これらの名前はかつては男女ほぼ同等に使われていたのにもかかわらず、最近は女性のほうが優勢で、だんだんに女の子の名前になりつつあるようです。

一方、女性が男性のように見えるほうはかっこいいと思われているようです。Nicki(最後をyではなくて、iにするほうがおしゃれ、女性形はNicholaあるいはNicole、男性形はNicholas)、Sam(女性形はSamantha、男性形はSamuel)、Charlie(女性形はCharlotte、男性形はCharles)、Frankie(上記のFrancesとFrancis)など、今までは男性のものと思われていた愛称を女性が名乗るのが近年流行しています。

さて、最後になりましたが、昨年9月にイギリスのニュースや新聞で取り上げられた名前に関する話題を。ある教育関係のサイトでのチャットがその発端となっています。教師は出席簿に載った生徒の名前を見ただけで、どの子供が問題児か一目でわかるというものです。

このサイトによると、Bobbi-Joなどのハイフン付きの名前(2つの名前をつなげたもので、女の子の名前として流行中)や、Kloe・K'tee(ケイティーと発音します)・Kristopher・Jayne・Gyaike(ジェイクと発音するのでしょう)・Chevaughn(アイルランドの女の子の名前であるシボーンのことか?)など、普通のよくある名前の綴りを変えたものや、綴りに関わり無くJordonといった名前は、即座に教師のブッラクリスト入りになるということです。また、Kyle、Liam、Charlie、Wayne、Kayleigh、Charmaineといった名前も、見ただけで問題児であることがわかるとのこと。

一方、よい子の名前一覧表というのもあるのですが、問題児リストと重なっている名前も少なくないことから、これらのリストは単に教師一人一人の経験に基づいているだけなのではないかという懐疑的な見方もあります。

こうした教師間のチャットを知って、怒ったのは親たちです。教師が教える前から生徒に対して偏見を持つというのはけしからんという非難がおこりました。が、わたしとしては、先生たちの意見には十分な根拠があると思います。普通の名前にわざと綴りを変えて一ひねりするような人は反体制的な傾向があり、教師という権威に抵抗することは十分考えられ、伝統的な価値観を持っていないことは明らかです。こうした親に育てられた子供というのは、えてして教師に尊敬を払わず、けじめを守れないことがあるでしょう。また、上記のような名前は、イギリス階級社会の最下層に位置する「アンダークラス」(下層階級)と呼ばれる人々に好まれる傾向があるようです。こうした人々は子供の教育にはあまり関心がなく、自分自身学校が嫌いだった経験から、子供の無断欠席(truancy)を放置しておくことがよくあります。教師でなくても、わたしもこういう名前を見たら、警戒してしまうであろうことは否めません。

● "Who do you think you are?"

イギリス人には、自分のルーツに関心のある人が多いと見えて、系譜学あるいは系図学(genealogy)という学問が巷でたいへん人気です。関心の表れを示すもう1つの例が、少し前に放映されていたイギリスのテレビ番組"Who do you think you are?"(「自分を何様だと思っているのよ?」という決まり文句ですが、ここでは自分のルーツを問う疑問となっています)の好評でしょう。わたしも最近のシリーズは、毎週興味深く見ていました。

 

有名人のルーツを探るのが番組のテーマですが、このシリーズで一番感動したのが、テレビ司会者のジェレミー・パックスマンの回。普段は、のらりくらりと質問をかわす政治家に鋭い質問を浴びせかける硬派のパックスマンですが、この番組で先祖の困窮にひそかに涙をぬぐうシーンには、見ているほうも胸が詰まりました。

 

彼は中産階級の出身ですが、少し世代をさかのぼると、パックスマンだけでなく、このシリーズで紹介された有名人のほとんどの先祖は、幸運で労働者階級、運悪く仕事にあぶれたりすると救貧院暮らしという下層階級でした。パックスマンも最初は、施しの金をもらいに足しげく通う先祖を情けないと軽蔑していたようですが、結核で次々と死んでいった別の親戚たちの人生をたどるにつれ、他人の慈悲にすがってでも、困難な時代をなんとか生き抜いてきた祖先にだんだんと同情がわいてきたようです。この番組を見ると、大多数のビクトリア時代の人たちは非常に貧しかったこと、そして、その中で生き延びていくのがどんなにたいへんなことだったのかが感じられます。こうした過去を経てこそ、「ゆりかごから墓場まで」と言われる現在のイギリスの福祉社会が存在するのでしょう。今後折を見て、イギリスの手厚い福祉制度についてご紹介していきたいと思っています。

では、また次号でお会いしましょう。

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