Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第80回の目次
● ロンドンの公共交通機関の話、今と昔
● 3年ぶりの日本

● ロンドンの公共交通機関の話、今と昔

ご無沙汰いたしました。前回発行からあっという間に6ヶ月が経ってしまって、今回も、お尻に火がついての発行です。

先日、白黒の古い映像を特集した番組をテレビで見ていて、とても懐かしく思ったのが、地下鉄の車両のつり革ならぬ、握り玉です。これは、最近はほとんど見られなくなりました。地下鉄も新しい車両への切り替えが進んでいます。

もう一つ、今ではほとんど見られなくなったのが、外からしか開かない電車のドアです。こうした車両では、ドアの内側にハンドルが付いていないので、降車時には、まず窓を開けます。この窓は上から下へのスライド式なので、窓の上側の縁をつかんで、窓を下ろします。こうして、窓が開いたところで、外側に身を乗り出し、手で外側のハンドルを回して、ドアを開けます。今でも、このような手動式のドアはあるようですが、姿を消しつつあるのが実情のようです。わたしは、一度、この方式の電車に出くわしたことがありますが、この窓がなかなか固くて、一向に下に下りず、急行なので、その駅で降り損ねたら、20分先の駅まで降りられないと、非常に焦った記憶があります。

この外からしか開かないドアは、かつて上流階級が汽車で旅行した時代、目的地では、すでに使用人が迎えに来ていて、外からドアを開けた習慣の名残であるというような話をどこかで読んだことがあるのですが、どうやら、本当の理由は、安全対策のようです。誤って、走行中の電車のドアを開くのを防ぐためという説が有力ですが、まだ駅構内を動いている電車から身を乗り出して、外側から開けるというのも、それなりに危険なような気がします。

このような電車は、降りる人たちが後ろ手で、ドアをバタンと閉めることから、スラム・ドア・トレインとも呼ばれますが、このような車両には、向かい合い席の列ごとにドアが付いているものが多かったものです。つまり、乗客は、向かい合った2〜3人がけ席の間、座った人たちの前を横切って、乗り降りし、後から降りる人のいないのを確認して、ビシャっと思い切りドアを閉めるというもの。この方式の車両には、あまり快い思い出がありません。

最近は、これはほとんど姿を消しましたが、地下鉄の座席レイアウトとは異なり、普通の鉄道では、やはり2人がけ座席中心のレイアウトです。つり革はなく、通路側の座席の肩に握る場所が付いているだけ。立ち席よりは、座る人中心のレイアウトで、なるべく多くの人が車内に乗れるようにという日本の電車とは基本的に違うなと実感します。

長い間待っても来なかったものが、やっと来たと思ったら、続けざまに(必要以上に)来るという状況を「ロンドンバスのよう」とイギリス人は表現しますが、今では、バスの待ち時間が各停車場ごとに電光掲示板に表示されるそうです。わたしは、もっぱら地下鉄利用者なので、ロンドンでは、10年以上バスに乗ったことがありませんが、昨年のオリンピック時期に英国を訪れた日本人の友人が、このシステムには非常に感心していました。車は同じ場所で渋滞するものなので、バスが遅れ、連続して到着するという状況は変わらないのでしょうが、予め待ち時間がわかっていれば、ストレスが減ります。コンジェスチョンチャージ(渋滞税)導入による交通量の緩和や、バス優先車線制度の導入によって、たぶん、バス移動は、以前より楽になっているのではないでしょうか。

日本滞在中に大変重宝したのがスイカカードですが、ロンドンにも、これと同様のものがあります。ただし、スイカカードの利用範囲が広がりつつあるのに対して、オイスターカードは、ロンドンとその近郊に限定されているのですが。

オイスターカードは、2003年7月に公式に導入されました。「スイスイのスイカカードに対して、オイスターカードは、(喉元を)スルスルってこと?」と日本の友人にオイスターカードの由来を尋ねられましたが、ネーミングの元は、"The world is your oyster"(世界はあなたの思いのまま)というシェークスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』を出典とすると言われる慣用句だそうです。これに、牡蠣に象徴されるセキュリティ(二枚貝が固く閉じたイメージで、牡蠣には、口が堅い、秘密をもらさないという意味もあります)と価値(日本では、アコヤガイのほうが真珠貝のイメージが強いですが、英国では、牡蠣には、真珠貝としてのイメージがあります)という思いがこめられているとのこと。

オイスターカードには、運賃割引というメリットもあります。地下鉄やバスの初乗り運賃が、現金で払った場合に比べて安くなります。たとえば、現在、現金で支払った場合のゾーン1の片道切符が4ポンド50ペンス(これって、法外な値段ではありませんか?)であるのに対して、オイスターカードを利用すると、2ポンド10ペンスになります。また、小銭がない場合、今はすっかりワンマン式に切り替わってしまったバスでは、乗車を拒否されることもありますが、オイスターカードがあれば、その心配はありません。

運賃と言えば、電車の運賃が利用する時刻によって大きく変わるというのが、日本と異なる点かもしれません。ラッシュアワー外の時間帯(オフピーク)に利用すると、半額近くになることもあります。また、片道切符でも往復でも、ほとんど金額が変わらないことがしばしばです。移動をする際には、予め、インターネットで、時刻表だけでなく、切符の金額をチェックして出かけるといいでしょう。乗車時刻をわずか10分ずらしただけで、運賃が半額近くになることもあります。また、さらに1時間ずらすと、そこからさらに安くなることも。1日中乗り放題のデイ・トラベルカードやオイスターカードでの地下鉄・鉄道・バス利用にも、オフピーク時の割引があります。

地下鉄・鉄道・バスに加え、2010年7月30日から、ロンドン公共の交通機関として登場したのが、通称「ボリス・バイク」です。正式名称は、スポンサーのバークレーズ銀行の名前を冠した「バークレーズ・サイクル・ハイヤー」。愛称は、ロンドン市長のボリス・ジョンソンにちなんでいますが、環境にやさしい交通手段である自転車を、ロンドン市内で自由に共同利用しようという案は、前ロンドン市長のケン・リビングストンの時代に生まれたものです。自転車を、ブラックキャブ(黒タクシー)や赤い二階建てバス同様、ロンドン名物にしたいというのが、労働党選出のこてこての左派、ケン・リビングストンの願いでしたが、それが、保守党選出のライバルの名前で、親しまれているのは、皮肉なものです。

ボリス・バイクの実施範囲は、44平方キロメートルに及び、トラベルカードのゾーン1(ロンドン中心部)にほぼ一致するそうです。自転車を拾う、あるいは、乗り捨てるドッキングステーションは、現在15,000箇所にのぼり、8,300台の自転車が利用されています。一日平均利用回数は、35,000とのこと。昨年のオリンピック開催時には、1日47,105回という記録的な利用回数を達成したそうです。

当初、利用は定期的ユーザーのみを想定したもので、会員登録を必要としました。登録後、郵送されてきたキー(代金は3ポンド)で、ドッキングステーションに駐輪されている自転車を開錠して、利用するというものです。のちに、不定期ユーザーにまで利用が拡大され、現在では、会員登録をしていなくても、ドッキングステーションで、デビットカードか、クレジットカード(チップ・アンド・ピン式のものに限られます)さえあれば、自転車を利用することができます。

自転車の利用料金は、24時間利用で2ポンド。24時間以内に、1回30分以内の利用なら、最初に支払う2ポンドだけで、何度でも利用が可能です。30分を超えた場合には、追加料金が発生します。30分と無料の利用時間が短いのは、追加課金で懐を潤そうという魂胆ではないかと言う批判もありますが、これは、この制度が、短距離の利用を本来の目的とし、自転車の常時循環を促進するための計らいでもあります。

 

数年前に、わたしの夫とその弟が、雨の日に、チャリングクロス駅周辺で、タクシーをつかまえようとしたものの、なかなかつかまらないので、最後の手段として、ボリス・バイクに頼ろうとしたものの、ドッキングステーションには、空いているバイクがなかったとこぼしていました。みな、考えることは同じなのでしょう。もっとも、その後、自転車数もドッキングステーション数も増加しいるので、状況は改善されているかもしれません。実施地域も拡大され、さらなる拡大計画が、今年後半にも実施されることからすると、この制度は、まずまずの成功をおさめていると言えるでしょう。

● オリンピック開会式

5月下旬から6月初めにかけて、3年ぶりに日本に帰国しました。2週間半ほどの滞在です。毎回いろいろと変わったことに気がつきましたが、今回は、特に、久々の日本の変貌ぶりが大きかったように思います。

まず、建物がきれいになっていました。震災で綻びの見えた建物に化粧直しを施した建物も多いそうですが、再開発がいろいろなところで進んでいるのが目に付きました。不景気のヨーロッパから来た目には、とても新鮮でした。

次に、今回の話題でもある交通機関。友人から、省エネのため、駅の照明が節約され、点灯してない電灯があると指摘されて初めて、駅の照明を見ると、なるほど、そのとおりでした。照明のほうは、暗くなったとは全然感じませんでしたが、すぐに感じたのが、冷房のほう。ちょうど梅雨入り宣言の出た直後でしたが、暑い日が続いたので、「弱冷房」と書かれた車両を避けて乗車しました。昔は逆だったのですが。夏になったら、いったいどんなことになるのだろう、もう私は夏の日本には帰れないと実感した帰国でした。

都下の支線(差別だ!)では、電車のドアが押しボタン開閉式になっていました。なんでも、冷たい空気を必要外に逃がさないためとか。イギリスでたまに利用する支線も、やはり乗り降りするときにボタンを押さないといけません。これも節電のためという説がありますが、日本とは違い、冷たい空気よりは、暖かい空気を逃がさないためでしょうね。

でも、駅のトイレはきれいになりましたよね。昔とは、格段の差です。でも、それだけきれいになっても、ハンドドライヤーのないところが多いのは、驚きです。ヨーロッパでは、(特にフランス)便座のない(あれは、取られてなくなったのか?それとも、最初から外してしまうのか?)汚いトイレででも、なぜか手を洗う石鹸とハンドドライヤーだけはあります。

さて、今、イギリスで一番話題になっているのが、ウィリアム王子とキャサリン妃の間に生まれたロイヤルベビーです。一昨年のお二人の結婚式、昨年のエリザベス女王の在位60周年とオリンピック開催に続いて、今年も愛国ムードで、イギリスは盛り上がっています。そこで、次回は、このロイヤルベビー関連の話題をお届けする予定でいます。

 

最後までお読みくださって、どうもありがとうございました。それでは、次号でまたお会いいたしましょう。

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