====================================================== 2000.9.25 =====
■◇■ Anglo−bites (イギリスつまみ食い)
増刊号 vol. 27 ■◇■
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本来なら読者の皆さんからのお便りをご紹介する増刊号なのですが、今回は
ここ数週間話題となっていたヨーロッパのガソリン危機についての個人的な
レポートをお送りします。いつものスタイルとも違うので、増刊号の扱いにし
ました。
ちょうどこの時期にフランスを車で縦断してスペインへ行ってきたのですが、
なかなかスリリングな旅となりました。
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● こうしてガソリン危機は始まった
事の発端は、ディーゼル・エンジン用重油の値上げに反対して、8月最
終週にフランスの漁師が港湾封鎖をしたことにあります。この結果として、
イギリスとフランスとをつなぐフェリーが運休となり、ユーロ・トンネル
には長蛇の列ができました。大陸で夏休みをすごした多くのイギリス人や
トラックの運転手たちが、フランスとイギリスの港で足止めをくい、なん
とも迷惑な話だというのが、イギリス人の当初の受け止め方だったわけで
す。イギリスだったら、警察がすぐに出動してデモを解散させているのに。
しかも、実力行使に訴えたフランス人の抗議活動は今回が初めてではあり
ません。その度に政府が折れるので、それでみんな味をしめるのだと苦々
しい気分でイギリス人たちは、海峡の向こうの騒ぎを見ていたのでした。
ところが、その翌週、フランスのトラックの運転手や農民たちが、石油
精製所周辺の道路封鎖を始めてから、イギリス人の意見も少し変わってき
ました。迷惑は迷惑なのだが、政府の度重なるガソリン税増税に何も言わ
ないで耐えているイギリス人よりは偉いのではないかと言う声も現れまし
た。
● ガソリン危機のフランスを行く
このような状況の中、わたしたちがスペインに向かって出発したのは、
9月6日の夕方でした。果たして、報道されている石油危機は本物なのか。
ほら、外国のニュースって、しばしば誇張があるじゃないですか。念のた
め、ドーバーのフェリー乗り場直前のガソリンスタンドで満タンにしてか
ら、午後7時のフェリーでカレイに向かいました。
フランスに着いて最初に寄った、高速道路サービスエリア内のガソリン
スタンドには貼り紙がしてありました。「お一人様100フラン(約14
00円)まで。ガソリンかんお断り。」というわけで、100フラン分だ
けガソリンを入れて、再び旅路につきました。
次のガソリンスタンドでも同様の貼り紙が。今度はご丁寧に英語の翻訳
までついています。ちぇっ、これでフランス語がわからなくて入れすぎ
ちゃったという手も使えない。途中で立ち寄ったホテルが満室で断られた
こともあるのですが、運転担当の夫の提案で、夜通し運転して一気にスぺ
インまで行くことに予定変更しました。この状況だと、昼間になれば、
一ヶ所のガソリンスタンドの割当量だけでは足りなかった車が、行く先々
のガソリンスタンドで列をなしているであろうことは想像にかたくありま
せん。
フランスでは、ディーゼル油のほうが事情は深刻で、高速道路の電光掲
示板には、あちこちで「ディーゼル油なし。ラジオの高速道路情報を聞く
ように。」というメッセージが見られました。
3番目に立ち寄ったガソリンスタンドでも、100フランの給油制限が
ありました。ところが、スペインまで行くと言う夫の話に同情してくれた
レジの男性が、他に誰もいないのを見て、満タンにしてもいいと言ってく
れました。フランスにもいい人っているのね。彼の話によると、南部のガ
ソリン不足はさらに深刻だということです。それを証明するように、4番
目に寄ったガソリンスタンドには全くガソリンなし。残り半分弱になった
タンクで、南仏のガソリンスタンドに寄ると、そこには貼り紙なし。とい
うことは、好きなだけガソリンを入れられる!!
この最後の満タン給油で、フランス−スペインの国境を無事越えること
ができました。
● スペインのガソリン事情
スペインでも、高騰する石油価格に抗議してガソリンスタンドをボイ
コットする動きがあるそうです。現在のところ、対象となっているのは国
内大手のレプソルとその子会社。レプソルのガソリンスタンドも見ました
が、閑古鳥が鳴いている様子はありません。それもそのはず、イギリスの
リッター当たり122円と比較したら、79円は抗議するほどのものでは
ありません。また、スペインでは抗議活動が石油会社を対象にしており、
フランスやイギリスのように燃料にかかる税金に対して政府に抗議してい
るのとはちょっと事情が違います。
帰路についたのは9月15日。この時点でフランスの燃料危機はすでに
終わっていましたが、スペイン−フランス国境のガソリンスタンドには
長い車の列が。ガソリン不足の心配というよりは、スペインの安いガソリ
ンをたっぷり入れていこうということなのでしょうね。
● そのころイギリスでは・・・
わたしたちが、スペインの灼熱の太陽の下、安いガソリンで海岸道路を
走りまくっていた時に、イギリスでは深刻なガソリン不足が起こっていま
した。フランス同様、石油精製所近辺の道路がトラックやタンクローリー
でふさがれたため、ガソリンスタンドへのガソリン補給の道が絶たれてし
まったためです。
13日(水)の朝には、「M25(大ロンドン圏の環状高速道路)はま
るでクリスマス・デーのよう。24時間以内にロンドンには一滴のガソリ
ンも残らなくなる予定。」という文章のメッセージが、イギリスの友人か
ら携帯電話に送られてきました。このガソリン危機で、経済的打撃を受け
た会社は少なくありませんが、反対にオレンジやBTなどの電話会社は売
上を伸ばしたそうです。
● 牛乳配達襲撃事件
イギリス人にとって、無くてはならないもの。それはパンと牛乳です。
前回の「イギリス人の主食」で、イギリス人はパンで生きているのではな
いと書きましたが、やっぱり基本はパン。しかも、パンは日持ちがしませ
んから、日々の配達が重要になります。ガソリン危機になって、まず困っ
たのが、どうやって新鮮なパンを手に入れるかということでした。
そして、もう一つは牛乳。これがなくては紅茶が飲めません。そこで、
こんな事件も起きたそうです。これは知人から聞いた話。
ガソリン不足で近くの店には牛乳がなくなり、車でスーパーマーケット
に買いに行くこともできない。ということで、近所の家に配達にやって来
た牛乳配達の人から、牛乳を買おうとした人たちがいました。牛乳配達の
車は電気自動車がほとんどなので、配達には直接の影響はなかったようで
す。ところが、牛乳配達夫は、日頃自分たちを利用していないのに、こん
なときだけ頼ろうなんて虫が好すぎるといって売ろうとしません。これを
聞いてかっとした人たちは牛乳配達夫に襲いかかり、牛乳を強奪したとい
うことです。
● ガソリン危機の残したもの
こうして、イギリス中に混乱をもたらした道路封鎖は、60日以内に
政府がなんらかの対策を取る(当然、燃料税カットを期待しているので
しょうが)ことを条件に解除されました。
この時期スペインにいたわたしには、イギリス人の反応を全て把握す
ることはできませんでしたが、抗議者に対する共感はかなり強かったの
ではないかと思われます。もちろん、実力行使に対する批判はあります。
しかし、こうでもしないと事の深刻さを政府にわからせることはできな
かったのではないでしょうか。(それでも、石油会社に責任を押し付け
ている政府が、どこまで自動車利用者の怒りを理解しているのかは疑問
ですが。)
以前、「イギリス人の地域対抗意識」という特集をしたことがありま
すが、世論を二分するほど、常にイギリス人を分裂させるのが「都会と
田舎」という問題です。きつね狩りや治安と自己防衛、都市計画問題な
ど、都会と田舎で意見の分かれる問題は数多くありますが、このガソリ
ン税の問題もその一つでしょう。
イギリスの田舎といえば、わがビーン村のように、ロンドンから車で
わずか40分のところでも、公共の交通機関に関してはまことにお粗末
なところがほとんです。鉄道はもちろん通っていない。一番近くの鉄道
の駅までも、とても歩ける距離ではない。限られた路線を走るバスも、
一時間に一本というのが現状です。
労働党政府は、環境保全を大義名分に、自動車離れを促進するためと
いう名目で、これまで予算発表の度に燃料税を引き上げてきました。
現在、イギリスで売られているガソリンの76%までが税金に相当しま
す。これはヨーロッパ平均の62%と比較してもかなり高い数字です。
その一方、公共の交通機関のサービス向上のために政府が何をしてきた
かというと疑問です。自動車利用者にとっては、ガソリン価格上昇とい
うムチばかりで、自動車を捨てようにもそれに取って代わる交通手段が
ないことになります。
また、これまで、ガソリン税増税は、国庫収入を増やすための一番抵
抗の少ない方法として利用されてきました。自動車毎に収める道路税も、
すでに道路整備のために使われていないことを政府は公言してはばかり
ません。つまり、自動車利用者が支払っている税金は、自分たちの利益
以外のものに使われているわけです。
ガソリン危機後に実施された世論調査の結果は、どれも保守党の逆転
リードを示しています。労働党政府に対する国民の不満を表していると
言えるでしょう。大蔵大臣のゴードン・ブラウンは60日間の期限が来
ても妥協はしないと明言していますが、(これが間接的なきっかけと
なって、19日にはガソリンのパニック買いがおき、再び各地のガソリ
ンスタンドで行列が見られました。)一度、立ち上がったイギリス国民
を再び眠りにつかせることができるのでしょうか。今後の政府の対応が
注目されます。
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今回は本編自体が編集後記みたいなものでしたが、お決まりなので、やっ
ぱり、最後はこれでしめましょう。
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● ビーン村より愛をこめて(編集後記)
そんなわけで、真夏のスペインを後にして、秋の気配の漂うフランス
を北上し、初冬のイギリスに帰ってきました。全身の汗腺が開ききって
いるところに、いきなり最高気温16度はつらかったです。
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