
**イギリスつまみ食い**
| 第44回の目次 |
| ● 一年ぶりのご無沙汰でした |
| ● イギリスで家を売る・買う − 住宅売買の落とし穴(1) |
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● イギリスで家を売る・買う − 住宅売買の落とし穴(1)
わたしたちがビーン村の家を売りに出したのは、2000年5月中旬のことでした。この時点から家が売れる2001年1月までの約7ヶ月間の足取りを元に、イギリの住宅売買の落とし穴についてご紹介していきたいと思います。 家を売ろうと決めたら、まず不動産屋に見積もりを頼みます。この見積もりに従うかどうかは売り手の判断次第です。早く売ることが第一ならば安い値段で、特に急がない場合は高めの価格で売りに出します。値段が決まったら、不動産屋と契約を結びます。期限付きの独占契約や複数の不動産屋との契約、一律手数料契約と売買価格に応じた手数料契約など、契約にはいろいろな種類があります。 さて、買うほうですが、まず希望する地域の不動産屋を見て回ります。不思議なことに、イギリスでは新築の家以外、間取り図というのがありません。ですから、不動産屋店頭の写真・値段・宣伝文句を見て気に入ったら、中に入ってさらに詳しい資料を求めましょう。また、希望の地区が決まっていたら、その辺りを回ってみるのも一案です。売り物件には、不動産屋の看板が立っているので、その不動産屋に連絡してみます。ただし、自分の家に「売り」看板を立てるのが嫌いな人が多いため、すべての売り物件にこの看板が立っているわけではありません。 このとき、その物件がフリーホールド(自由保有不動産)であるかリースホールド(借地権付き不動産)であるかには注意しましょう。単に値段に差があるだけでなく、借地契約の期間が短い(15年以下)場合には、住宅ローン(のちに詳しく述べます。)を取り付けられないことがあります。 気に入った物件が見つかったら、不動産屋を通して内覧を申し込みます。最近では、インターネットを通して売り家を宣伝する方法もありますが、売り手にとっては、不動産屋を利用することによりひやかしの内覧者を防ぐことができるというメリットがあります。不動産屋を介しても、他人の家を見ることを至上の楽しみとしている人の一人や二人はどうしてもまぬがれることはできませんが。 実際に家を見て気に入ったら、不動産屋を通してオファーを出します。つまり、買い手が適当と思う値段を申し出るわけです。この値段が売値であれば、受け入れられる可能性はかなり高いと言えます。多くの場合は、売値より安く買えることを期待して、買い手は売値より若干低い値段を申し出ます。もちろん、この値段が売り手の気に入らないことも往々にしてあります。その場合、買い手はもう少し高い値段を申し出るか、この家をあきらめることになります。また、複数の買い手からオファーが出ることもしばしばあります。この場合は、一番高い値段を申し出た買い手のオファーが受け入れられることになります。この間のやり取りはすべて不動産屋を通して行われます。 こうして、売り手と買い手が適当と思う値段で合意すると、不動産屋から電話の確認があった上、書面で売り手と買い手の両方に通知が行きます。スコットランドではこの時点で契約が成立し(日本では口約束でも有効と聞きますが)、法的拘束力が発生するわけですが、イングランド及びウェールズでは、そうではありません。"For Sale" の看板が "Sold" に変わるのがこの時点ですが、よく見ると "Sold" の下には、"Subject to Contract" という小さな文字がついています。これは、買い手はついたが、契約書交換までは法的拘束力は発生していないことを示します。つまり、もしもこの家を買いたいという別の人が現れてさらに高い値段を売り手に提示した場合、売り手が新しい買い手に乗り換えることも法的には許されるわけです。これが、イギリス(厳密にはイングランド及びウェールズですが)の住宅売買の第一の落とし穴。 さて、こうして法的拘束力はないものの、とりあえず商談が成立すると、事務手続きが始まります。この間、契約完了 (completion) まで、平均43日間・約6週間かかり、イギリスは、現在、家の売買にヨーロッパ一長く時間のかかる国となっています。 そんなに住宅売買に時間がかかる原因とは何でしょう?その前に、どのような手続きが必要とされていくのかを見ていくことにします。 まず、買い手・売り手共に、自分たちの代理として事務弁護士 (solicitor) を立て、この人たちに土地登記に関する調査を含む事務手続きを一任します。この選択は非常に重要です。有能でやる気のある事務弁護士を選ぶかどうかで、売買に要する時間も大きく変わってきます。 買い手が次にしないといけないことは、家を買うための資金調達です。住宅代金全額が手元にあれば話は簡単ですが、多くの人は住宅ローンに頼ることになります。イギリスでは、モーゲージと呼ばれる、買う家を担保にした住宅ローンが一般です。一般的に年収の3〜4倍までは問題無く借りられると言われます。頭金ゼロの100パーセント・モーゲージなどという住宅ローンもあり、貯金の無い若い人たちでも簡単に家を買うことができます。(ただし、このような場合、貸し倒れのための保険金を借り手負担しないといけないのが普通です。)住宅ローンの貸し手ですが、イギリス特有なのが、ビルディング・ソサエティーと呼ばれる、住宅ローンに特化し借り手を組織員とする相互会社でしょう。(最近は、預貯金や投資など銀行業務もする会社や、株式会社に転換し、銀行となる会社も増えています。)この他に、もちろん銀行や、定収入の無いハイ・リスクの借り手を対象にした融資会社などから借りることもできます。 さて、こうして住宅ローンを申し込むと、一週間後くらいに買う家の不動産鑑定 (surveyance) を行うことになります。住宅ローンを借りる場合には、これは担保の評価を意味し、買い手の実費負担で必ず行わないといけませんが(住宅ローン会社が、指定した鑑定士を派遣することもあります。)、自己資金で住宅を購入する場合は、行うか行わないかは全く買い手の自由です。鑑定の種類にも松・竹・梅とあり、住宅の構造を徹底的にチェックするものから表面的な状態の報告程度といったものまで様々で、もちろん値段も異なります。たぶん一生で一番大きな買い物になるはずですから、鑑定も満足の行くよう行いたいものです。 鑑定の結果、買う家が住宅ローンの担保として十分であるということが認められると、ローン会社からローンの許可(オファー)が出ます。こうして、住宅購入のための資金が確保されたことになります。 買い手側でこうした手続きが進行している間、売り手側では、その事務弁護士によって境界線や隣接する歩道の所有権などの土地登記に関する調査が行われ、集められた登記書類が買い手の事務弁護士の手に渡されます。 我が家の場合、この段階で2週間ほどもたつきました。家の前の歩道が誰のものになっているのかわからないというのがその原因です。一般の人が普通に行き来している普通の歩道なのですが、市道ではないようです。たぶん、9年前、この家他12軒が建てられた時にデベロッパーが作った歩道と思われますが、その後、市の管理に移行される前にデベロッパーが倒産してしまったために、歩道の所有権がうやむやになってしまったようです。この歩道の所有権がはっきりしないということは、法律的には車道から歩道を横切って家へ入る権利が確保されていないということになります。 非現実的で馬鹿馬鹿しい話なのですが、このため買い手の住宅ローン会社からローンの許可がおりず、住宅売買は暗礁に乗り上げてしまいました。(現在、イギリスは住宅ブームで、住宅価格が本来の住宅の価値を越えて急騰しています。そのため、住宅ローン会社は、担保不動産の価値についてはかなり慎重になっているということです。そこで、このような些細な問題にもうるさくなっていたのかもしれません。わたしたちが6年前にこの家を買った時にも当然同じ問題があったはずですが、そのときには全く問題になりませんでした。)この問題は、結局、「この6年間、家へのアクセスを妨げられたことは一度もありませんでした。また、歩道の保守・安全について責任を問われたこともありませんでした。」という宣誓書にわたしたち(売り手)がサインすることで、決着が付きました。 この後、通常、購入価格の10%を手付金として買い手が売り手の事務弁護士の口座に振り込みます。そして、契約書交換 (exchange of the contracts) をし、売買代金の残金が振り込まれる日、つまり契約完了 (completion) の日を決めます。この日が、売り手にとっては家の引渡し日となり、鍵が買い手に渡され、買い手はこの日以降いつでも入居できることになります。 後は契約書交換を待つのみと思っていた8月下旬、わたしたちの住宅売却は最初のどんでん返しを迎えるのでした。 [次回に続く]
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