Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第51回の目次
● イギリスの地域対抗意識(2)
● さらにワールドカップから

 ● イギリスの地域対抗意識(2)

あの熱狂がすっかり遠い昔のことに思われるようになってしまいましたが、ワールドカップ開催中に読者の方からこんなお便りをいただきました。「イングランドとイギリスとは違うのでしょうか?」

イングランドはイギリスの一部を構成する地域です。われわれが日本語でイギリスと言っているのは、"United Kingdom" を指しますが、正式名称を "United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland" といいます。"Great Britain" は、イングランド・スコットランド・ウェールズを一まとめにしたものですので、したがって、"United Kingdom (U.K)" はイングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドを総称することになります。これらの4つの地域は、英語では "country" (国)と呼ばれ、民族的にも文化的にも独自性を持っています。1997年以来政権を握っている労働党の地方分権政策により、近年ではそれぞれ議会を持つようになり、立法的にも独立してきました。また、スコットランドや北アイルランドでは、イングランドおよびウェールズとは異なった法律が施行されています。

今回のワールドカップでお気づきになった方も多いと思いますが、イングランドは、守護聖人のセント・ジョージを象徴する白地に赤十字のセント・ジョージズ・クロスを国旗とします。これに、スコットランドの国旗であるセント・アンドリューズ・クロス(青地に白の斜め十字)とアイルランドの守護聖人セント・パトリックを象徴する赤の斜め十字を組み合わせたのが、イギリスの国旗であるユニオン・ジャックというわけです。

サッカーをはじめスポーツ行事には、イギリスがこの4カ国に分かれて代表を送ることがあります。今回のワールドカップでは、イングランド以外のチームは予選で敗退したため出場がかないませんでしたが、4年前のフランス大会では、イングランドが予選負け、スコットランドがワールドカップ出場の栄誉に恵まれました。

 

一国から4つの国の代表を送れるのは幸か不幸か。これについては議論の分かれるところです。選手にとっては国際舞台での活躍の可能性が高くなることになりますが、イギリスにとっては力が分散されることになります。(ウェールズ代表のライアン・ギッグスがイングランド代表だったら・・・。)フットボールの場合、次のいずれかの条件を満たす場合、選手にはその国を代表する資格があります。(1)本人がその国の出身である場合(2)父親・母親・祖父母のいずれかがその国の出身である場合(3)4年以上その国で働いている場合。交通網と情報網の発達し、人の交流が盛んになった現代ですから、スコットランド生まれの男性とウェールズ生まれの女性がイングランドで出会って、そこで子供が生まれるなどということも少なくありません。今回のワールドカップでイングランド代表に選ばれたオーウェン・ハーグリーブスはカナダ人ですが、両親がイングランドとウェールズ出身、しかもドイツのサッカー界に4年以上籍を置いているため、4カ国を代表する資格がありました。(一度ある国の代表に選ばれると、ほかの国を代表する資格はなくなってしまいます。)

このようなわけで代表選手選出の幅はかなり広くなっていますが、原則的にはイングランド代表という場合には、イギリスの一部を構成するイングランドから選出されることになります。一方、今回ワールドカップに出場し、予選リーグは日本を拠点としていたため日本人にも馴染みの深かったアイルランドチームは、アイルランド共和国(南アイルランド)を代表しており、イギリスの一部をなす北アイルランドとは別です。ちなみに、南のアイルランド共和国が独立したのは1921年と、20世紀に入ってからでした。

イギリスを構成する4カ国に分かれて競い合う例は、サッカーのほかに、ラグビー(ユニオン)の6カ国対抗やクリケットの国際試合などで見られます。(クリケットに関しては、国を代表するチームはイングランドしかありません。イギリスの国内試合でグラモーガンというウェールズのチームがひとつあるだけで、事実上イギリスでクリケットをするのはイングランド人だけということになっているからです。)また、現在イギリスのマンチェスターで開催中のコモンウェルス大会(元大英帝国の一部であった国を中心に形成されている英連邦の加盟国で競い合われるオリンピックのようなもの)では、イギリスはイングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの4カ国別に代表を送っています。

前回の「イギリスの地域対抗意識」でも書きましたが、ここには不思議なライバル意識が流れています。たとえば、今回出場を果たせなかったスコットランド人は、近所のよしみでイングランドチームを応援するかというとそういうわけでもありません。

BBCのワールドカップ関連バラエティー番組では、こちこちのスコットランド人3人(バグパイプ奏者、ハギス製造者といった職業)を選び、どこまでイングランドを応援できるか競争させるという企画がありました。みな、賞品のためにかなり健気にイングランドチームを応援していましたが、ひとりは思わず相手チームの得点に歓声をあげていました。1606年にスコットランドの王がイングランドの王座について以来同じ王の統治下にあり、1707年には正式に2つの王国は統一されましたが、1746年までイギリスの中央政府に対するスコットランド人の反乱は続きます。こうした歴史もあって、スコットランドでは独立の気風が強く、イングランドへのライバル意識もとても強いところです。

前回の「イギリスの地域対抗意識」に関連した増刊号でヨーロッパの対抗意識に触れましたが、ドイツ人に対するイギリス人の敵対意識はかなり強いものです。決勝のブラジル対ドイツ戦では、ブラジルを応援するイギリス人が圧倒的に多かったようです。

 ● さらにワールドカップから

いろいろな話題を残したワールドカップでしたが、イギリスのマスコミでは日本人のホスト国としての暖かい歓迎ぶりが大好評でした。日英の友好関係を深めるのにはとてもいい機会だったように思います。

ワールドカップの話題たけなわの頃、よく日本の友人たちにされた質問が「デイビッド・ベッカムがナイトの爵位を授けられるって本当?」というものでした。日本のマスコミでとりあげられたのでしょうね。わたしはイギリスのメディアでそういう話題が取り上げられたを聞いたことはありません。(もしお聞きになった方がいたらご一報を。)団体競技の場合、1つの偉業よりはその人物の生涯のスポーツへの貢献が評価されることが普通なので、ベッカムはまだ若すぎる、また、今回のワールドカップでは故障が治ったばかりで、個人的には十分な活躍ができなかったこと、イングランドチーム全体としても、対ブラジル戦後半でのふがいない試合ぶりはマスコミや世論の批判の的となったこと(わたしとしては、日本の蒸し暑さを考えると選手に同情するばかりです。)を考えると、爵位授与の話は信じられません。

わたしの推測では、6月15日のエリザベス女王公式誕生日記念叙勲リストにローリングストーンズのミック・ジャガーの名前が載り、ナイトの爵位を授けられることになったことから、「ミック・ジャガーにやるくらいなら、ベッカムにサーの称号をあげたほうがいい。」というような発言が時節柄どこからか上がったというのが、この噂のタネではないでしょうか。(イギリスの納税者の金で教育を受けておいて、金持ちになったら、イギリスに税金を払いたくないという理由で外国に移住するような人間に、ナイトの爵位を授けるのはおかしいとわたしも思います。)

さて、ベッカムといえば、ベッカムの最近のあだ名をご存知ですか?ゴールデンボールズと言います。そのまま日本語に直訳してください。このマガジンと筆者の品位を保つために、みなさんのご想像にまかせたいと思います。これもまた、奥方のポッシュスパイスこと、ビクトリア・ベッカムのうっかり発言がマスコミにうけて定着してしまったといういつものパターンのようです。(これで、彼女がどんなにポッシュ(上品)か想像がつくでしょう?)ラッキーな男、何をやってもうまくいってしまう、ついている男という意味だそうです。(やっぱり女性には使わないでしょうね。)

最後に、第25号のテーマは補償文化でしたが、コンペンセーションカルチャーの先進国・アメリカで、KFC、バーガーキング、ウェンディーズなどのファーストフードチェーンを相手取って肥満した人たちが訴訟をおこすというニュースが最近ありました。自分の健康管理責任を棚に上げて、賠償金目当てにこれらの会社を訴えた人たちに対して世論はやはり冷たいようです。しかし、訴訟の行方はわからない以上、ファーストフードチェーンも慎重にならざるをえないでしょう。そのうちに、ビックマックの包み紙に、「健康のため食べ過ぎに注意しましょう」なんて警告が登場するようになるかもしれません。

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