
**イギリスつまみ食い**
第6回

| 第6回の目次 |
| ● 鍵はヴィクトリア時代にあり |
| ● クリスマスのイベント Pantomimes, Santa's Grotto, Christmas carol singing |
| ● クリスマスの習慣 Kissing under the mistletoe |
| ● クリスマスの休日 Boxing day |
| ● 一言イギリス英語講座 - "come out" |
| ● 次回予告 |
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● 鍵はヴィクトリア時代にあり
さて、今回はクリスマス特集の第2弾。お約束通り、クリスマスのイベントと習慣についてです。 ご存知の通り、クリスマスは、キリストの誕生日に、各地の土着の信仰(イギリスでは、冬至を境に日が長くなり始めることを祝うドルイド教の習慣)がとけ込み、今日のようなお祭りになりました。従って、古い習慣にはこの土着の信仰の影響が色濃く見られます。 現在に伝わるイギリスのクリスマスの習慣の多くは、ヴィクトリア時代(1837年〜1901年)に今日のような形になりました。特に、クリスマスをお祭りとして楽しむような習慣は、この時代に始まったものがほとんどです。たとえば、前回の "Anglo-bites" でご紹介したクリスマス・カードもそうです。その起源は15世紀にさかのぼると言われますが、本当の意味でのクリスマス・カードが作られたのは1843年で、John Calcott Horsley が Sir Henry Cole (文筆家・芸術批評家。今のヴィクトリア&アルバート博物館の創設者)に送ったのが始まりです。1880年までには、クリスマス・カードをやり取りすることが、一般に行われるようになったそうです。クリスマス・クラッカーは、前回にも書いたように1847年にトム・スミスによって発明されました。クリスマス・ツリーは、15世紀にロンドンの通りに立てられたのが始まりという説もありますが、一般的には、ドイツから婿入りしたヴィクトリア女王の夫君、アルバート公 (Prince Albert) が1841年にイギリスに紹介したといわれています。 |
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● クリスマスのイベント
Pantomimes (Pantos) 日本を始め、他の国で一般に知られているパントマイム(無言劇)とは違います。パントの歴史は、17世紀、18世紀にまでさかのぼると言われますが、今日の形に近い、歌や踊りを交えた滑稽な劇の形になったのは、やはりヴィクトリア時代のことです。ここから、徐々に現在の形(おとぎ話に題材をとり、クリスマス近辺になると演じられる)に発展していきました。 パントのお約束ごとは、1)主人公は若い女性で、2)道化役は女装をした(ど派手な衣装をつけた)俳優によって演じられる。3)悪者役は、思い切り憎々しい。4)観客参加を呼びかける。("Oh, no it doesn't!"とか "Oh, yes it does!" そして "He's behind you!" などは、最もよくあるフレーズ。観客皆で声をそろえて舞台に向かって呼びかけます。)5)有名人(よくあるのは、soap の脇役やそれほどメジャーでないタレント。隣町のパントにはポストマン・パットも登場します。)がちょい役で出演し、古典的なお話に現代味を添える。 演題は、「ピーター・パン」や「長靴をはいた猫」などの古典的なものから現代劇まで幅広いですが、今年のクリスマスのトップ5(もっとも頻繁に演じられる劇)は下記の出し物だそうです。(1)アラジンと魔法のランプ (Aladdin) (2)シンデレラ (Cinderella) (3)ジャックとまめの木 (Jack and the Beanstalk) (4)ディック・ウィッティングトン (Dick Whittington) (5)白雪姫 (Snow White and the Seven Dwarfs) (4)のディック・ウィティングトン以外は、日本でもよく知られた話ですね。このディック・ウィティングトンというのは、一部実在の人物に基づくおとぎ話で、ディック少年が、猫と一緒に、富と名声を求めて船旅に乗り出し、今まで猫を見たこともないというねずみばかりの島に行って富を築き、ロンドンに戻って市長となる、という成功物語です。 パントではありませんが、クリスマスの出し物として有名なのは、バレエでは「くりみ割り人形」 (The Nutcracker) です。年末といえば、日本ではベートーベンの第九ですが、クリスマス近辺になると、イギリスではヘンデルのメサイアなど、宗教音楽が頻繁に演奏されます。 Santa's Grotto クリスマスの近くになると、あちこちのショッピングセンターや大きなデパートの一角で、親子連れが列を作っているのがよくみかけらます。これは、Santa's Grotto への入場を待つ人たちの列です。入り口で、入場料(1ポンドか1ポンド50ペンスくらい)を払って中に入ります。親は普通同伴しません。中はほら穴のようになっていて、その奥で、サンタクロースのおじいさんが、"Ho, ho, ho" と笑って呼びかけます。子供がサンタのひざにのると、サンタさんが「いい子にしているかな?クリスマスには何がほしい?」と聞きますので、子供は希望のプレゼントをサンタの耳元で告げます。そして、サンタは袋からプレゼントを取り出し、(これは子供がほしいと言った物ではありません。入場料からサンタのアルバイト料を引いたくらいの金額のものです。プラスチックのおもちゃの場合が多い。)子供に渡しますので、子供はそれを持って、grotto から出て行きます。
で、子供がサンタに告げた希望のプレゼントはどうなるかというと、どうにもなりません。実は隠しマイクがあって、何を子供がほしがっているか、親が聞くことができる、とかそういう工夫があってもいいのではないか、とわたしは思うのですが。 ところで、サンタクロース (Santa Clause) という名前は、アメリカから入ってきたもので、イギリスでは、今でも "Father Christmas" のほうが一般的には広く使われています。 Christmas carol singing クリスマスの歌を歌う習慣はたいへん古いもので、イングランドでの最古のクリスマス賛歌集は、1521年に出版されたものです。伝統的には、大人の人たちが個人の家を回り、クリスマスの歌を歌いました。(昔はもっぱら賛美歌だったそうですが。)家の人は、お礼に、スパイスを入れた温かいワイン (mulled wine) とミンスパイ(mince pies) をふるまいます。(この二つの詳細については、次回の「クリスマスの食べ物と飲み物」をご参照下さい。) |
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● クリスマスの習慣
これにはいくつかのバージョンがあります。 まず、18世紀頃に始まった "a kissing ball" といわれるもので、ヤドリギ(mistletoe) 、常緑樹、リボン、飾りものでできた、"a ball of mistletoe"(リースのようなものでしょうか?)の下に立っている若い女性は、だれかがキスをしようとしたらそれを拒否することはできないというものです。誰にもキスをされなかった女性は、その翌年は結婚できない、(そりゃ、そうでしょうね。よっぽど人気がないんでしょうから。)というおまけもついています。 最近聞いた説によると、女性でも男性でも、ヤドリギの下にいる人はキスを拒否できないそうです。しかも最初にキスをする人は、自分と反対の髪の色(金髪の人だったら、相手は黒とか茶色など濃い色)でないとならないそうです。また、最初でも最後でも、とにかく相手は自分と反対の髪の色の人でないといけないという説もあります。 二つ目は、この "a ball of mistletoe" の下で友情のしるしにキスを交わすというもの。 三番目は、天井から下がっているヤドリギの下に、偶然若い女性がいるのを見たら、男性はキスをしないといけない、というものです。 他には、カップルがヤドリギの下でキスを交わすと、それは将来結婚するという約束と解釈される、というのもあります。いずれの場合も、期間に関しては、クリスマス・シーズンということで、特定の日は指しません。 わたしの実際の経験としては、クリスマスパーティーで、ヤドリギを一枝持って歩き回る人がいて、カップルでいるのを見ると、ヤドリギを女性の頭の上にかざして、つれの男性がその女性にキスをするよう促していました。 これらの習慣は、イギリスの先住民族であるケルト人が信じたドルイド教の僧たちが、宿り木を神聖なものと考えたことから来ているようです。ヤドリギには、病気を治癒する能力や、魔法使いの魔術から身を守る力、毒薬の解毒作用や生殖能力を確実にする力などがあると信じられていました。この繁殖力と関係して、キスにちなんだ習慣が生まれたのではないか、といわれています。 一方、この習慣の直接の由来は、北方民族の神話によるという説もあります。愛と美の女神 Frigga がある日、その息子で夏の太陽の神でもある Balder が死ぬ夢を見ます。これが正夢となるのを防ぐため、 Frigga は空と火と地と水に住むあらゆる動物と植物に、息子に害を及ぼさないようにと約束させました。この時、Frigga は、空にでもなく、地面にでもなく、また地中にでもなく、木に寄生するヤドリギのことをすっかり見落としていたのでした。邪悪の神にして、Balder の宿敵、 Loki はヤドリギを矢の先につけ、その弓矢を盲目の冬の神に渡し、それを射らせます。すると弓矢は、Balder に当たり、夏の太陽の神は死んでしまいました。3日間、彼を蘇らせようという努力がいろいろなされますが、最後に彼を復活させたのは、母の Frigga でした。この時、彼女が流した涙が、ヤドリギの白い真珠のような実になったということです。また、この時、 Frigga はうれしくて、ヤドリギの生えた木の下を通るものすべてにキスをしました。この物語は、ヤドリギの下に立つものには、いかなる災いも降りかかってはならない、ただ愛のしるしのキスが降りかかるのみである、と結ばれています。 最近では、このヤドリギもイギリスから姿を消しつつあるようです。育つ環境が限られていること(通説によるとリンゴと樫の木に生えるということですが)と栽培がほとんど行われていないことが原因のようです。この習慣もだんだんに姿を消していくのかもしれません。 |
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● クリスマスの休日
Boxing Day クリスマスの翌日26日がこの日に当たります。この日に、教会の寄付金箱 (alm box) が開けられ、その中身が教区の貧しい人々に配られました。伝統的に、この日に召し使いたちに休暇が与えれ、家族ですごします。牛乳配達、郵便配達の人たち、またごみの収集人などがもらったチップの箱を開けるのもこの日です。 この日のことを初めてわたしが知ったのは、シンガポールの休日としてでした。恥ずかしい話ですが、シンガポール人はよっぽどボクシングが好きなんだなあ、国民の休日にしてしまうなんて、と感心したものです。 英国では、Christmas Day と Boxing Day は Bank holiday (銀行協会が決めた銀行の休日で、この日は、銀行が休みであるのに便乗して、ほとんどのオフィスは休み。) です。今年は、さらに28日が26日の振替休日で、4連休となります。24日の Christmas Eve は、半ドンの会社が多いです。 |
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● 一言イギリス英語講座 - "come out"
辞書をひくと、「出てくる、公開される、発表される、・・・という結果になる、」などいろいろな日本語が出ていますが、それくらい前後の文章関係によっていろいろと訳すことのできる語句です。最近流行っているのは、そのうちの「ゲイであることを告白する」という意味です。 10月におこった摩訶不思議な強盗事件を原因に、ウェールズ大臣のロン・デイ ビスがその閣僚ポストを辞任しました。この事件をきっかけに、政治家の sexuality (性的志向とでも訳しましょうか?)は、公的な関心事であるか、それとも純粋に私的なことなのか、という議論がわきおこりました。この事件の直後に、テレビのインタビューに出演した、農漁業食糧大臣のニック・ブラウンは、番組中に自分がゲイであることを明らかにし(カムアウトし)政治家の性的志向に対する興味はさらに高まりましたが、貿易産業相のピーター・マンデルソンはゲイではないか?という疑惑については、政治的圧力・プラス・コネが働いて、BBCでは彼の性的志向については放送禁止という異例の決定がありました。ちなみに、文化遺産相のクリス・スミスはすでにゲイとして知られており、公式の行事にもゲイのパートナーを同伴しています。 |
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● 次回予告
さて、次回はいよいよお待ちかね(って、わたしだけ?)「クリスマスの食べ物と飲み物」です。スーパーに行くと、クリスマス食品がずらっと並んで手招きしています。そろそろ、職場のクリスマスパーティーもふえてきました。いよいよ、クリスマスの雰囲気も盛り上がってきています。 |